濵中氏
島に泊まり、島に生きる
かつて「ごみの島」と呼ばれた小さな島がある。
いま、その島は「アートの島」として世界から注目を集めている。
瀬戸内に浮かぶ人口700人余りの豊島(てしま)。私はここで、島の仲間たちと協議会を組織し、農家民宿を営んでいる。
私が子どものころ、この豊島は産業廃棄物の不法投棄に苦しんでいた。風評被害を受けながらも歩みを止めず、課題解決に挑み続けた人々がいたからこそ、現在の豊島は世界から注目される島となったのだと思う。
ただし「豊島問題」は決して過去の話ではなく、今も続いている。だからこそ、過去を語り継ぎながら未来を見据え、地域を持続的に発展させる観光の在り方を探っていくことが大切だと感じている。注目しているのは「リジェネラティブ・ツーリズム」だ。これは単なる環境保全にとどまらず、滞在そのものを通じて地域に社会的・経済的なプラスの循環を生み出していこうとする考え方だ。
豊島の農泊は、その実践例の一つではないだろうか。観光客はホテルではなく民家に滞在し、地元の人々や暮らしに触れることで地域との関わりを深める。例えば、島のおばあちゃんと畑の野菜で朝食をともに作る体験は、旅行者にとって忘れがたい記憶となり、住民にとっては生きがいにもなる。こうした体験は口コミで広がり、リピーターや新たな来訪を呼び込んでいる。
その波及効果は島全体にも及んでいる。現在、豊島には15軒以上の農泊施設があり、宿泊需要の高まりが新しい施設の誕生を後押ししている。雇用が生まれ、移住者を呼び込むきっかけにもなっており、今年も新たに2人が農泊に関わるため島に移り住んだ。さらに飲食店が増え、農産物の地産地消が進み、地域経済の循環が強まっている。家庭菜園の余剰野菜がレストランで活用されるなど、小さいながら観光が農業を支える事例も見られる。
大切なのは、観光客に特別な負担を求めるのではなく、滞在そのものが地域を「再生する力」となっていくことだと思う。各家庭が空き部屋を活用したり、空き家となっていた古民家を1棟貸しで運営するなど、住民が自分のペースで関われるのも農泊の強みだ。
豊島は小さな島だが、アートが旅行者を呼び、住民主体の農泊によって「島の人々が島を元気にする」という姿を示している。こうした取り組みが、これからの地域観光の一つの形を映し出しているのではないだろうか。私はこの島で、その可能性をさらに広げながら、観光が未来への希望につながっていくことを願っている。

濵中氏




