「愛着」「誇り」「行動」から見る旅行推奨・受容との関係性
じゃらんリサーチセンターはこのほど、地域への「愛着」「誇り」「行動」という感情や行動の構造を定量的に捉え、それが観光推奨や受容にどうつながるのかを明らかにする「ご当地調査2025」の調査結果を公表した。これによると、地域を誇りに思える人が多いほど、他者に薦めたい気持ちや観光客の受け入れに前向きな傾向にあることが分かった。
観光を取り巻く環境が大きく変化する中、持続可能な観光地経営には「外からの誘客」だけでなく、「住民の地域への思い」がいっそう重要になっている。いわゆる消費型の観光から、地域の誇りや人のつながりを基盤とした観光へと価値観が移行する中で、同センターは、住民がどのように地元を好きになり、誇りを持ち、行動に移しているかを可視化することを目的に今回の調査を行った。
調査は今年5月16日~6月4日の期間、全国の20~69歳の男女1万1631人を対象にインターネットで実施。回収サンプルは都道府県別の性・年代人口構成比に合わせてウェイトバック(WB)集計した。
回答者が18歳までに最も長く居住した都道府県を「ご当地県」と定義。ご当地県にずっと在住している人を「ご当地県定着者」、ご当地県から進学、就職、結婚などを機に別の都道府県へ移住した後、再びご当地県に移住した人を「ご当地県Uターン」とし、この二つを合わせて「ご当地県在住者」とした。
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まず、ご当地県在住者を対象に、ご当地県への思いを「愛着(好き・親しみ)」「誇り(誇れる・自信を持てる)」「行動(参加したい・関わりたい)」の三つの視点から47都道府県ごとに比較した。ご当地県への「愛着」について、「とても愛着を感じている」と回答した割合が最も高かったのは沖縄県が56.0%で最多。次いで北海道(53.7%)、福岡県(49.7%)、宮崎県(41.4%)、兵庫県(40.6%)と、西日本を中心に愛着度が高い傾向に。特に50%超えの沖縄県と北海道の愛着の理由をカテゴリー別にみてみると、沖縄県は「地元名産品」「雰囲気・気質」、2位の北海道は「食」「自然・環境・気候」がそれぞれ1位。自然環境や風土文化が「地元らしさ」を支えていることがうかがえる。
次に、「ご当地県で暮らしていることを誇りに感じる」という問いに対し、「とてもそう思う」と回答した割合は、北海道が32.6%で1位。沖縄県(31.9%)、福岡県(30.8%)、神奈川県(23.0%)、広島県(22.2%)が続いた。
「ご当地県の地域の行事や取り組みに積極的に関わりたい」という問いに対し、「とてもそう思う」と回答したのは13.9%の沖縄県が1位。熊本県(13.1%)、広島県(11.8%)、神奈川県(10.8%)、宮城県(10.6%)が続いた。
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ご当地県への「愛着」「誇り」「行動」を高める要素を探るため、回答者をそれぞれのスコアに応じて高(TOP1)、中(TOP2)、低(それ以外)の3区分に整理し、五つの観点(1)ご当地県のイメージ(2)暮らして良かったと感じた時(3)「もっと関わってみたい」「良くしていきたい」と思った時(4)ここ1~2年で経験したこと(5)ご当地県での18歳までの過ごし方―から分析した。その結果、「愛着」は日常生活の中で地元の良さを実感する場面や、家族・友人、小中学校での思い出といった「心のつながり」が基盤となることが分かった。
「誇り」は、他者から地元を評価される場面やイベント参加など、地域の魅力を外から気付く機会がきっかけになりやすい。子どもの頃に誇りを語る大人と接した経験も影響が大きいという。「行動」は、「地域に活気を感じられるか」「未来に期待が持てるか」が原動力となる。自分のスキルや活動が地域の役に立っていると実感できることが背中を押し、特に県外からの移住者(Iターン)で高い傾向が見られた。
「これらを総合すると、『愛着』は暮らしの中で育まれ、『誇り』は他者評価や地域活動を通じて育ち、『行動』はその二つを押し上げる“ブースター”として機能していることが示唆された」と同社。
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ご当地県在住者に「他の都道府県出身の人にご当地県へ宿泊旅行に来てほしいと思うか」を尋ねたところ、「来てほしいと思う」(ぜひ来てほしいと思う+まあ来てほしいと思う計)と回答した割合は、愛着が高い層で74.2%、誇りが高い層で84.5%、行動が高い層で86.3%となった。「愛着」「誇り」「行動」のいずれもスコアが高い人ほど、他県からの旅行を積極的に歓迎する傾向がうかがえる。
また、「ご当地県や住んでいる地域に対して、どのように感じているか」と尋ねたところ、「地域に観光客が増えるのはうれしい」と回答した人(とてもそう思う+まあそう思う計)を見ると、愛着が高い層で63.3%、誇りが高い層で79.2%、行動が高い層で93.4%と、いずれも高水準だった。
同社の池内摩耶研究員は、「『愛着』『誇り』『行動』は主従関係にあるものではなく、いずれかを起点に相互に影響し合いながら、人々の地域への意識を深めていく関係にある。観光教育や移住者・Uターン者との協働など、地域に関わる“行動”を生み出す多様なきっかけづくりが、結果として愛着や誇りを高め、観光推奨・受容を育てる力になる。観光を軸に、地域の内と外がともに関わり合う場を増やしていくことが、ご当地愛の循環を動かし、地域の持続性を高める新たな戦略になるのではないか」と分析している。





