【口福のおすそわけ 577】イマドキの養殖ウニ~後編~ 竹内美樹


竹内氏

 海から藻場が消えてしまう「磯焼け」の主犯として駆除されたウニを、地元の特産物や名産品で畜養し、食用化に取り組んでいる例を、前編・中編とお伝えしてきた。

 今回ご紹介するのは、愛媛県愛南町が手掛けるご当地ウニ「ウニッコリー(商標登録済み)」。餌は、地元特産のブロッコリーと「愛南ゴールド(河内晩柑(ばんかん))」だ。なぁ~んだ、結局地元の農産物を餌にしてるだけで、どこも同じじゃない、と思うなかれ。

 唐突だが「ガンガゼ」ってご存じだろうか? サンシャイン水族館公式サイトの「見かけたら要注意!夏の海で遭遇すると危険なヤツ(生き物)5選!」というコラムで、海水浴やダイビングの際注意するよう呼びかけられている、ウニの仲間だ。そのトゲは細く鋭く、少し触っただけでも刺さってしまうそうで、ウェットスーツも貫通するというからオソロシイ。毒があり、刺さると腫れて激しい痛みを伴い、ひどいと発熱したり、筋肉のまひや呼吸困難を起こす場合も。

 実はウニッコリー、この危険なガンガゼを畜養したモノなのだ! 天然のガンガゼは、海藻や海底のデトリタス(生物の死骸や排せつ物などが分解された有機物)を食べているせいか、苦味やエグ味があり、可食部分も少ないため、一部地域を除き食用にはしない。それを美味なウニにしようというのだから大変だ。

 このユニークな名前のウニを世に送り出したのは、同町海洋資源開発センターと愛媛大学。参考にしたのはあの「キャベツウニ」だ。町の特産物を餌にしてみようと、同県内約5割の生産量を誇るブロッコリーを1カ月ほど与えたところ、エグ味が和らぎ甘味が増したという。さらに、同じく特産の愛南ゴールドを与えてみると、身に爽やかなかんきつの香りが付いた。ただ、あまり長期間与えると酸味も付いてしまうため、出荷前の1週間のみ与えることにしたそうだ。

 ブロッコリーは出荷時大きさをそろえた後に捨てていた茎を譲り受けており、愛南ゴールドは枝から自然落下して商品価値がなくなった、いずれも廃棄予定の地元農産物を使う。キャベツウニは陸上養殖だが、2018年から試験養殖を開始したウニッコリーは、海に設えたいけすでの畜養。まだ生産量は少なく、県内の飲食店での限定販売と、ふるさと納税で出荷する程度だが、あっさりした味わいで、苦手な人でも食べられると好評だ。

 本をただせば有毒なトゲを持つガンガゼゆえ、トゲを取り除き、殻から中身を出さなければ販売できない。コレは全て手作業だ。出荷後の殻は、餌となるブロッコリーや愛南ゴールドの畑にまいて、炭酸カルシウムとして肥料になり得るか、実験中だという。

 海の厄介者×陸の端材が高級食材に変身するなんてスゴイ! しかも、藻場の回復や漁場環境の保全にもつながる上、新たな特産品と雇用をも生み出すのだ。こうした持続可能な取り組みを応援したい。っていうか、食べてみたいな♪

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
 
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