【観光トレンド10】福島原発を〝学びの教室〟に① 佐伯克己 


 今年に入ってから、何度も浜通りを訪れている。サンアメニティが主催する「福島伝承スタディツアー」をサポートするためだ。社会人、大学教授や学生、地方議員、社会人、リタイアされた熟年夫婦まで、全国各地から多様な人々が参加している。目的はただ一つ―福島第一原子力発電所(イチエフ)の構内に入り、歴史の現場を自らの目で確かめるためである。イチエフに足を踏み入れられるチャンスはまだ少ない。

 メインのイチエフ視察は富岡町の廃炉資料館に集合。約4時間にわたる視察が始まる。会議室で原発事故の経緯、そして廃炉の進捗(しんちょく)状況やALPS処理水の安全性について、東京電力の担当者が丁寧に説明してくれる。その真摯(しんし)な姿勢に参加者は耳を傾ける。資料館から専用バスで構内へ移動。厳重なセキュリティチェックを経て、線量計を手にいざ入構。まるで空港の入国審査のような緊張感が走る。

 下車ポイントは2カ所。まず「ブルーデッキ」では、1~4号機の原子炉建屋をわずか100メートルの距離から望む。損壊の跡や復旧作業の説明を受け、誰もが言葉を失う。次の「グリーンデッキ」では、ALPS処理水のタンク群や新設の防潮堤が眼前に広がる。海を見渡しながら、災害と再生のはざまを体感する。

 私は今年8月、36年間勤めたJTBを退職し、観光まちづくりを支援するため中小企業診断士として会社を立ち上げた。これまでも、双葉町のデジタルマップや浪江町の多言語化などの事業で、浜通りに関わってきたが、イチエフはずっと「近くて遠い場所」だった。

 初めて構内を訪れたのは今年3月。その体験を通じて感じたのは、廃炉という極めて困難な道を人々が一歩ずつ着実に進んでいるという事実、そしてここには”学び”としての価値があるという確信だった。

 次回は、このイチエフ視察研修をいかに地域再生や交流人口の拡大へつなげていけるのか。観光の力を信じてきた一人として、私なりの提案をしたい。

 (株式会社クレイジーキルト代表取締役 佐伯克己)
        

 
 
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