【駅メロとわずがたり47】西武所沢駅(1) 「トトロ」が守る狭山丘陵 藤澤志穂子


トトロとネコバスの銅像

トトロとネコバスの銅像

 西武池袋線で東京から所沢へ向かう。手前の秋津駅(東京都東村山市)から所沢駅(埼玉県所沢市)の間の線路沿いのやぶの中に、スタジオジブリ制作のアニメ映画「となりのトトロ」(1988)に登場する「トトロ」が一瞬、こちらを向いている姿が見える。「このへんないきものは、まだ日本のどこかにいるのです、たぶん」という映画公開時のキャッチコピーは本当だったのだと何だかうれしくなる。聞けば「トトロの森」とされる狭山丘陵を守るため、市民や企業の寄付金で運営する公益財団法人「トトロのふるさと基金」が2012年に譲渡を受けた山林で、やぶの中の「トトロ」は生みの親である宮崎駿氏が手掛けた看板だった。

 狭山丘陵は東村山市から所沢市に広がる。その入り口でもある所沢駅の発車メロディは、映画で流れる「となりのトトロ」(作詞:宮崎駿、作曲:久石譲)と「さんぽ」(作詞:中川李枝子、作曲:久石譲)。2020年の所沢市政70周年を記念し、同年11月3日から流れている。ジブリが初めて正式認可した駅メロであり、音源は所沢市が制作した。「何回聴いてもいい。所沢市民がうらやましい」「素晴らしい取り組み」といった声が寄せられている。駅前にはトトロと、作品中に登場する「ネコバス」の銅像=写真=が同時に設置された。休日には多くの子供たちや家族連れが取り囲み、思い思いに触れて写真撮影をしている。外国人観光客も多く訪ねてくるという。

 「トトロ」は「所沢にいるとなりのおばけ」が名前の由来といい、宮崎駿監督が1970年代から温めていた企画だった。所沢に長く在住し、地域の豊かな自然から着想を得た。昭和30年代前半の所沢近郊を舞台に、都会から父と引っ越してきたサツキとメイの姉妹が、子供にしか見えないという、森の精霊のような「トトロ」に出会い、成長していく。療養中の母が入院する病院やバス停の名前は、実在の場所がモチーフになっている。「自然の山や木を見ていて、この中から生えてくるお化けってどんなものだろうと考えて、タヌキでもあり、ムジナでもミミズクでもある、全部まざったヘンなものということでトトロができたんです」と話している。

 この作品はなぜか、公開当時の興行成績は振るわなかった。だが、その年のキネマ旬報ベストテンで日本映画の1位を獲得するなど次第に評価が高まり、今や世界中で知られる、ジブリの代表作となった。名匠、黒澤明監督が気に入り、「ネコバス」を面白がった、という逸話もある。ロンドンでは2022年から舞台版「My Neighbor Totoro」が上演されて人気を博し、2023年には演劇界の由緒ある「オリビエ賞」で主要6部門を受賞、無期限のロングラン公演中だ。国境を越えた普遍的な人気の秘密とは何なのだろうか。

 ◇出典=トラベルMOOK「西武鉄道の世界」交通新聞社
 ※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)、「駅メロものがたり」(交通新聞社新書)など。

(月1回掲載)

トトロとネコバスの銅像
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