【観光立国・その夢と現実 63】旅館業界と議員④ 小原健史


小原氏

 約20年前の参議院比例区選挙に出馬した際に、札幌市で全旅連全国大会を開催し、選挙の決起大会も併せて実施したが、忘れられない公私にわたる二つの事件が起きた。 

 一つは、森喜朗先生が全旅連全国大会および小原健史候補の総決起大会に激励に来られたのだが、全国大会が始まると毎年のように会場は満席ではない。割と空席も目立ち盛り上がりがない(大会の人数は少なく懇親会にはどっと人が集まる)。これは全旅連大会では毎年恒例のことであるが、そんなことは森先生には言えない。壇上の隣の席の私に「小原君、全旅連は本気で君の選挙をやってるのか? 空席が多いじゃないか? どうなっているんだ!」と叱責(しっせき)される。私は候補者で動けないので小声で「すみません」を連発するが、森先生はあきれて途中で席を立たれてしまった。

 驚き慌てたのは選対本部だ。「森先生は?」のメモがきた。返しのメモに「森先生は会場の人数が少ないと怒って帰られた!」と返信。後半の“小原健史候補総決起大会”に森先生の激励のあいさつをいただく予定だったので選対幹部は混乱した。 

 その直後、北海道議会の6月議会は議場が騒然となっていた。なんと傍聴席にいきなり元総理の森喜朗先生が来ているとの情報が議会内に広まりざわめきが起こったのだ。当時の高橋はるみ知事自身が大変驚かれて欠席の予定の全旅連大会の懇親会にも急きょ、出席となった。各方面がてんやわんやである。当時の政界のドンともいえる森喜朗先生の登場に札幌の街は揺れた。

 一方、全旅連全国大会の懇親会は札幌パークホテルの大ホールに収まりきれない大人数が集まり大いに盛り上がった。

 そして、森喜朗会長の機嫌もなんとか収まり盛大な懇親会となったが、その最中に私の携帯電話が何度も鳴った。大事な場面にしつこいなと思いつつ画面を見ると家内の真弓からの連絡だ。実は、昨日の定山渓温泉の理事会の途中で家内からの電話で「次女の慶子が下校中に暴漢に襲われ手首をハサミで切られ出血はないが精神的に娘も私も混乱している」との連絡である。私から「大事な時に地元にいなくてすまん。選挙の最中なのですぐには帰れん勘弁してくれ」と言ったばかりだ。

 内心、また今日も何かあったかと心穏やかならず、一時席を外して返しの電話をした。私「何かあった?」、真弓「あなた帰ってきて! 今度は長女の美嘉が襲われて髪をバッサリ切られた! もう限界、早く嬉野に帰ってきて!」と叫ぶ。

 それを聞いて、私は全旅連大会の開会中で、ましてや自分の参議院選挙の最中だが、娘2人が2日間連続して暴漢に襲われて心ここにあらず、佐賀県の後輩で私に付き添っていた日浦正人君と全旅連の清澤事務局長に向かって叫んだ。「俺を嬉野に帰らせてくれ!」と。選対幹部に緊急に協議してもらい地元嬉野に候補者の私が急ぎ帰宅することが許された。その瞬間に私は会場のホテルの玄関に向かって走り出し、タクシーに乗って札幌千歳空港発羽田空港行きの最終便に飛び乗った。

 今思えば、経営者としては、自分が創業した時代型テーマパーク肥前夢街道の破綻や、宮崎市青島の観光開発事業の挫折などいくたびも修羅場や土壇場に立った経験があったが、国会議員の選挙に立候補を予定したとはいえ、小学生の娘2人が連続して暴漢に襲われるという事態に、私はかつてないほど慌てた。

 選挙直前の暴行事件だったので最初は選挙妨害か? 誰がやったのか? などと興奮して一方的に邪推するばかりであったが、娘2人の精神的な傷のフォローにもっと気持ちを割くべきだったと述懐するばかりだ。

     (元全旅連会長)

 
 
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