2025年の宿泊市場では、インバウンド需要が過去最高水準で推移している。日本政府観光局(JNTO)によれば、8月の訪日外国人旅行者数は約340万人(+16.9%)、9月も約330万人(+13.7%)と前年を大きく上回った。さらに1~9月の全ての月で300万人を超え、訪日需要は「回復」から「定着」へと完全に移行した。
一方、国内宿泊者数は一部地域で減少しており、今後の成長源は明確にインバウンド側にある。
この潮流を確実に取り込むには、“検索行動”を前提としたWeb集客戦略が欠かせない。訪日客の多くは旅行前にGoogleやSNSで宿や体験を比較しており、検索で選ばれる設計こそが成果を左右する。自社サイトのSEO、クチコミ対応、Googleビジネスプロフィールの整備は基本戦術であり、食事・温泉・客室・周辺情報などの魅力も「現地で感じる前にどう伝わるか」が問われている。
さらに、近年の調査では、訪日旅行者の多くが「体験の質」や「ストーリー性」に価値を見いだしていることが示されている。単なる価格訴求ではなく、“納得感のある体験”を提供する宿ほどクチコミ評価や再訪意向が高い傾向にある。地域の物語や旅の背景を可視化すること自体がブランディングとなり、検索段階での”選ばれる理由”をつくる。そのためには、地域の食文化や風習を紹介する多言語コラム、動画による温泉・体験ストーリーの発信、外国人向けフォトスポットの提案など、具体的な情報発信の仕掛けが有効だ。
インバウンド対応では、英語・中国語など多言語化に加え、GoogleマップやOTA、SNSなど複数チャネルでの情報整合性と導線設計が重要だ。観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、訪日客の7割以上がSNSや検索を通じて宿泊施設を比較しており、予約導線の簡素化(3クリック推奨)や動画・写真による体験訴求が転換率を左右する。
訪日300万人時代において求められるのは、量の拡大ではなく質の深化だ。
宿泊事業者が多言語・多経路で価値を伝え、旅の体験を物語として設計できるかが問われている。
”選ばれる宿”とは、検索の瞬間から滞在後の余韻までをデザインできる宿である。
(株式会社プライムコンセプト・小林義道)




