「今年も利益が出ませんでしたね。もっと売り上げを上げろとは言いません。でも、原価やコストはコントロールできるはずです。来年こそは利益を出してください」。銀行の支店長からこう言われました。
「はい、分かりました」と答えたものの、1人で決算書を眺めながら途方に暮れているお宿の経営者がいます。
支店長の指摘はさらに続きました。「原価率が月ごとに大きくばらついています。人件費、エネルギーコスト、支払手数料が足を引っ張っているようですね。物価上昇は理解できますが、それを理由に来年も赤字見込みというわけにはいきませんよ」。
確かにその通りです。でも、銀行は問題点の指摘はしてくれますが、具体的な解決策までは教えてくれません。「経営するのはあなたです。自分で考えて実行してください」です。
そこで経営者は改めて決算書や試算表を何度も見返してみました。さらに総勘定元帳や補助元帳まで引っ張り出して、いつ何にいくら支払ったのかを時系列で確認しました。確かに支出の流れは見えてきました。でも、それが妥当なのかどうか、判断がつきません。ただ数字を深掘りするだけでは、根本的な解決には至らないのです。
では、どうすればいいのでしょうか? 他人事ではありませんよね。
そもそも、今ある支出は全て、過去のあなたが「必要だ」と判断して決めたものです。最近始めたものもあれば、何年も前から続いているものもあります。中には、内容をよく覚えていないものや、なぜ始めたのか説明がつかないものもあるかもしれません。だからこそ、支出の一つ一つに「プロフィール」を作ってみましょう。
具体的には、各支出について次の項目を明文化していきます。箇条書きで構いません。
・この支出は何のためのものか?
・何をすることで、どんな効果を生み出すのか?
・どのような条件で支払っているのか?
・金額はいくらか?
・いつから始まったのか?
・単発の支出か、継続的な支出か?
これを全ての支出について作成します。これがあなたのお宿の「支出プロフィール一覧表」です。
「これは今後も継続すべきか、もっと増やすべきか、減らすべきか、それとも廃止すべきか?」
こうした意思決定をする際、この一覧表を判断材料にしてみましょう。一つずつ作り上げるのにはある程度時間がかかります。でも作り続ける過程で、全ての支出の中身がはっきりと見えてきます。いわば支出の棚卸しです。
経営における意思決定には、明確な判断基準が必要です。でも、その基準がなければ、作ればいいのです。支出プロフィールは、まさにその判断基準を作り上げる作業です。
決算書の数字は結果です。でも、その結果を作り出しているのは、日々の一つ一つの支出です。その支出の意味を「見える化」することで、初めてコントロールが可能になります。
コストの見直しを行う上で、大部分の経営者は決算書や試算表しか見ていません。それは結果だけをみて、中身や過程を見ずに大切な判断を下すことになります。
銀行の支店長の言葉に答えるために、まずはこの「支出プロフィール」作りから始めてみませんか? きっと、あなたのお宿の経営が変わるきっかけになるはずです。
失敗の法則その74
コストの見直しを行うとき、決算書や試算表の勘定科目の数字のみで、内容を決めてしまう。
その結果、最適な見直しかどうかが判断できずに、見切り発車となってしまう。
そこで、支出のプロフィールを作り、内容の可視化をすることで、見直しの判断基準を作ろう。
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