【失敗の法則から学ぶ~宿経営者の仕事大全58】目標設定の前に目的設定をする 孫田 猛 


 多くのお宿の将来像は、「経営計画書」や「収支計画書」で明確化されていますが、両者はほぼ同じ内容であることが多く、数字だけで語られている現状があります。
 
 なるほど、数字は絶対的だ。数字はうそをつかない。誰でも分かる指標だ、などといわれます。なるほどその通りです。ではあなたのお宿におけるお客さまの笑顔や満足。一生懸命に働くスタッフ。提供商品である料理、サービス、施設、立地。差別化そしてわざわざ泊まる価値。これらも数字だけで表せばよいのでしょうか。それとも目指すべきゴールは全て着地点における利益額であって、これらのものは全て目標数字を導き出すためのツールなのでしょうか。
 
 確かにお宿経営者の関心事の多くは、数字であることは事実です。このコラムではそれを否定するのではなく、数字にとらわれすぎない経営のあり方について、考察していきます。
 
 頭の中の大部分が、数字で占めているお宿経営者は、お客さまやスタッフの仕事内容には、関心が薄まっています。現場のことは現場に任せてしまう。
 
 そして数字に頼りすぎると、現状把握や将来展望も数字だけで語ることになります。しかし、数字はあくまでも指標であり、お宿のあるべき姿を示すための補助的な役割を果たすものなのです。
 
 コンサルタントはしばしば「目標設定」を推奨しますが、それは数値目標です。それを受けて経営者は、コンサルタントとともに金融機関も納得する着地点としての数値を設定します。そしてその後付けとして、この数字を達成するためのアクションをひもづけます。
 
 数字を達成するための理由付けのためのツールが、お宿のコンセプトであり差別化であり、アクションであるかのようです。
 
 何かおかしいですよね。そもそも何のためにあなたのお宿は存在しているのでしょうか。あなたのお宿はどうあるべきでしょうか。
 
 そこで目標設定の前に、「目的設定」を行いましょう。初めて聞く言葉かもしれません。でも目標よりも目的の方が上位なのです。ところがいきなり目標ばかりが語られるから、そもそも何のためにと問われると答えに窮してしまうのです。
 
 お宿の存在意義は一つの言葉では語ることができません。なぜならば、経営者、スタッフ、お客さま、債権者としての金融機関、取引業者等、さまざまなステークホルダーの視点によって異なります。しかし、お宿が実態として存在する「あるべき姿」は一つです。その姿は提供商品である料理、サービス、施設、環境。労働環境、財務状態、マネジメント体制、オペレーション等、さまざまな要素から構成されています。
 
 お宿の目的を明確化し、それを達成した時、それぞれの構成要素はどのような状態になっていなければならず、各ステークホルダーにはどのような価値を提供できているのでしょうか。
 
 これこそが経営者が描く、存在価値のあるわが宿の設計図なのです。どれか一つでもステークホルダーとお宿との関係に不具合が生じ、その立場から価値がなくなっているという状態であったなら、その個別の関係だけが悪いのではなく、その悪影響は全体に広まっていきます。
 
 なぜなら、各ステークホルダーとあなたのお宿は一心同体なのです。その一点のほころびがお宿そのものの傷が大きくなっていく要因になります。各ステークホルダーの目的を経営者が仮説として設定し、わが宿はその価値を十分担っているか、じっくりと検証してみましょう。
 
失敗の法則その57
 数字の目標設定がお宿の経営を支配している。
 その結果、お宿が数字だけでしか語ることができなくなっている。
 だから、目標設定をひとまず置いて、ステークホルダーごとに目的設定をしてみよう。
 
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