
「せっかくお見えいただいたお客さまをがっかりさせてしまったら店を構える資格はないでしょう。たとえお一人さまのご来店だとしても今日の日は一度っきりですから」
あいにく大荒れの天候ではあったが、せっかくの福岡出張ということで昔なじみのすし屋ののれんをくぐった。どう考えてもほとんどの人が家路を急ぐに違いないお天気。お店の予約もほとんどがキャンセルとなるに違いない。天気予報通りではあるがお店にとっては何とも残念なことではあるだろうが、結果としてお店を独り占めさせていただくこととなった。私のような左党にとってはありがたい限りだ。お勘定を済ませお店を後にする私の懐も心もあたたかさに満ち足りていたことは言うまでもない。
日頃、さまざまな業態の中小企業経営者とお目にかかる中で、元気な中小企業に共通することがいくつか存在する。
中でも、(1)自分の会社の商品を徹底的に磨き続けていること。(2)お客さまと真摯(しんし)に正直に向き合い続けていること。(3)共に働く仲間を大切にし続けていること。この3点は特に重要だと思う。
件のおすし屋さん、親から子へ経営の引き継ぎが行われ、今の店舗に移って20年以上がたつのに掃除が行き届いた店内はいつもピカピカ。トイレの天井の換気扇に至るまで埃(ほこり)のかけらもない。加えて、いかなる天候にもかかわらずネタケースには新鮮な魚介類が品よく並べられ、大将は毎日午前中から仕込み作業に没頭している。そして、裏方からホールまで抜群のチームワークにより店内は笑顔が絶えることがないといった具合だ。
この三つのことを、飲食関連サービス業に絞って考えてみると、(1)料理・サービス・施設などに磨きをかけることは言うまでもないことだが、重要な商品である「人」にも磨きをかけているか否か。十分な教育を行っているだろうか。適当に使い捨てにしたりしてはいないだろうか。(2)印刷物やホームページ等で発信している内容と現実との間にギャップはないだろうか。素材や施設、サービス内容にうそやだましはないだろうか。お客さまの信頼がもっとも大切だとの自覚はあるだろうか。(3)採用に際して、その人の人生の一時期を責任をもって引き受けるとの覚悟はあるだろうか。共に働く人の成長を助け喜ぶことはできるだろうか、といったことになる。
全ての仕事に従事する者が決して忘れてはならない基本は「誠実なことと丁寧なこと」で、その継続の先に「信用と信頼」が成就することとなる。従って経営者たる者は誰よりも、商品・お客さま・協力業者さん、そして共に働く人たちに「誠実と丁寧」で向き合いたいものだ。「信用と信頼」のない仕事なんて何の意味もない。
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(EHS研究所会長)