
竹内美樹の口福のおすそわけ
前号で姫路名物「えきそば」をご紹介したが、同商品を販売している、創業明治21(1888)年、兵庫県姫路市の「まねき食品」の祖業はお弁当の製造販売。日本で最初の幕の内駅弁を発売した同社代表取締役社長竹田典高氏が、6代目社長就任を機に、代々受け継がれてきたロングセラー商品「名代あなご寿司(ずし)」に勝るとも劣らぬ日本一の穴子弁当をと、1年半の試行錯誤を経て開発したのが「たけだの穴子めし」だ。
先日、竹田社長と姫路でお目にかかる機会を得て、帰京する前に、2020年8月に開業した同店に立ち寄った。メニューは「たけだの穴子めし」のみのテイクアウト専門店だが、その分、さまざまなこだわりが詰まっているのが分かる。
最高峰の穴子めしは、肉厚のアナゴを厳選するところから始まるという。使用するのは、兵庫・室津港から届く活〆のマアナゴだ。それを職人がさばき、丁寧に白焼きにする。注文が入ると、店頭の焼き台の網に載せ、皮側からあぶる。そこに特製だれを塗ってからあぶるという作業を2度繰り返す。
そしていよいよ、アナゴの頭と尾から取っただしを煮詰めた、秘伝の煮だれの鍋にドボン! サッと炊くことでうま味をまとわせる。この独自製法で、表面はカリッと、中はふんわりやわらかな食感が生まれるという。焼き穴子でも煮穴子でもない、工夫と手間暇によるオンリーワンの穴子なのだ。
お米は減農薬減化学肥料の地元兵庫県産「きぬむすめ」を使用。あでやかで粘り強く、冷めても美味なのが特徴。アナゴのうま味が凝縮された煮だれを加え、2口の羽釜を据えた特注のおくどさんでふっくら炊き上げる。それを折箱に敷き詰め、兵庫県西脇市産の金ゴマ「金播磨」をパラリ。
日本で流通しているゴマのほとんどは海外産で、国産はわずか0.01%しかないといわれる。この金ゴマは無農薬だから、一つ一つ虫を取り除かねばならない。
2週間程乾燥させ、さやから落とした小さなゴマを集め、ふるいや唐箕(とうみ)にかけて不純物を除去、さらに紙の上に広げて1粒ずつより分けるなど、気が遠くなるような工程を経て作られるそうだ。小粒だが、ナッツに例えられるくらい風味豊か。
その上に、ひと口大に刻んだアナゴをビッシリ! そして、奈良漬け・しば漬け・しょうが漬けの、漬物3兄弟が盛り付けられる。異なる味わいで、味変が楽しめる。最後に添えられるのが、ボトル入りの追いダレと、袋入りのさんしょう。コレがまた、さんしょう好きにはたまらないおいしさ♪ 和歌山県産の大粒のぶどうさんしょうの果皮のみを石臼でひき粉状にしたもので、鮮やかな萌黄色から鮮度の良さが分かる。
気になるお値段は、1折税込み2160円、小サイズは1折税込み1500円。一切の妥協を許さず、こだわりの詰まった穴子めしは、間違いなく姫路の新名物だ。前号で触れた万博会場内の「MANEKI FUTURE STUDIO JAPAN」では、2階の厨房で調理しており、店舗内で出来たてをいただけるそう。やっぱり行かなきゃ!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。