【交通運輸記者会共同インタビュー】今後の国土交通・観光行政を水嶋智事務次官に聞く


水嶋智国土交通事務次官

水嶋智国土交通事務次官

 国土交通省の事務方トップ、水嶋智国土交通事務次官が12日、観光経済新聞など専門紙が加盟する交通運輸記者会の共同インタビューに応じた。7月1日付で現職に就任し、山積する国土交通行政の課題に取り組む中、観光政策に関する質問にも答えた。国際交流のさらなる活性化に向け、成田空港の機能強化やアクセス向上に取り組んでいることを報告したほか、インバウンドだけでなく、アウトバウンドや日本人の国内旅行、それぞれが活性化することが観光立国実現に必要との認識を示した。


訪日6000万人15兆円、現実的な目標に

 ――これまでの経歴で特に印象的な出来事は。

 観光庁が2008年に発足した時、初代の観光資源課長を務めた。観光庁の総務課長の時にインバウンドが1千万人を突破。その後、観光庁の次長の時には国際観光旅客税をつくった。それらを担当させていただいたのは非常に思い出深い。

 ――2030年の訪日外国人旅行者6千万人、消費額15兆円の実現可能性について所感は。

 この目標が設定されたのは今から9年前の2016年。当時インバウンドは2千万人程度、消費額も3・5兆円という状況だった。そういう時代から見れば、チャレンジングな目標だったと思う。

 今年は、上半期だけでインバウンドの消費額が4・8兆円を超えており、訪日客数も7月までで2500万人。このまま順調にいけば4千万人を超える見込み。そう考えると、2030年6千万人、15兆円という数字も、官民が取り組みを進めていけば実現不可能ではない現実的な目標になってきている。(2030年まで)残りまだ5年間ある。観光と交通の取り組みを強化していくことで、この目標達成に向けて引き続き頑張っていきたい。

 ――インバウンドとアウトバウンドのバランス、国内旅行の活性化は。

 そもそも観光立国(の実現)は経済のためだけに目指しているわけではない。日本人自身がもっと海外に出ていくことで、日本の国を見つめ直すきっかけにもなるはずだ。より高次元の政策目的のためにも、日本人のアウトバウンドは促進していく必要がある。インバウンドだけが極端に多い状態になると、これは航空ネットワークを維持しにくくなる。

 日本人が国内を旅することも当然大事だ。日本人が他の地域に行き、そこで経済活動、消費活動をすることで、その地域が潤っている。これも統計的に見れば(ボリュームとして)とても大きい。

 日本の観光地は、もともと日本人が活用することで観光サービスが生まれてきた。日本人旅行者がマーケットをつくってくれる、サービスの水準を上げてくれる。それによって日本の観光の産業が鍛えられ、マーケットができてきたことを過小評価してはいけないだろう。

旅客税の在り方 移動環境の整備支援を検討

 ――国際観光旅客税の在り方については。

 オーバーツーリズムが言われているが、「うちにはまだ来ていない」「インバウンドのメリットなんて感じられない」という地方もいっぱいある。広域でインバウンドの観光客の方が移動できるような環境を整えていく必要がある。

 そのための幹線交通体系や地域の交通体系は、本来もっと国が支援していく必要がある。そのために必要な財源を国際観光旅客税という形でいただいていくということであれば、外国の方も日本人の方もプラスアルファの税負担をしていただくことの納得感は持っていただけるのではないか。しっかり議論・説明していく必要がある。

 ――成田空港の「第2の開港プロジェクト」における国の取り組みは。

 現在、B滑走路の延伸とC滑走路の新設という大きなプロジェクトに取り組んでいる。

 今、最も重要な課題となっているのは、3本目のC滑走路の早期の供用開始。現在、28年度末をめどに供用開始するということで、成田空港会社を中心に用地の確保が進められている。

 中野洋昌国交大臣からは今年4月、今年度末を目標に必要な用地確保を加速化するよう指示をいただいた。これを受け、今年5月に「成田空港滑走路新増設推進協議会」が設置。国と成田空港会社と千葉県と地元の3市町がメンバーで、現在、用地の確保率が7月末時点で85.3%まで達成しているが、まだご理解を得られていない方々もいる。協議会の枠組みを活用しながら、課題解決に向けて最大限取り組んでいきたい。

 成田空港のアクセスも機能強化を図っていく必要がある。これも昨年9月、国で検討会を立ち上げ、今年6月に対応の方向性を示す中間取りまとめを行った。

 ――座右の銘は。

 幸田露伴の“三福論”が好きだ。幸福になったら、その幸せな状況を無駄にしない「惜福」、それを人に分けてあげる「分福」、将来の幸せのために種を植えておく「植福」。幸せそうにしている人には共通点があって、結局人を幸せにしようとしている人が一番幸せになれると(幸田露伴も)言っている。

 これは公務員として本当に大事だと思っていて、「世のため人のため」と社会の人々を救っていると傲慢(ごうまん)になりがちだが、一番救われているのは自分自身だ。そういう仕事を通じて、自分が社会の中で役に立っているかもしれない。自分自身がそういう思いを持つことによって、自分自身が救われているのではないかというふうに思う。

水嶋智国土交通事務次官
水嶋智国土交通事務次官

【水田寛人】

 
 
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