【Jack高橋のユニバーサルフードとインバウンドの未来29】インドにおける食の禁忌について 高橋敏也


食の禁忌は、民族や宗教のアイデンティティーを守り、信仰と生活様式を明確に示している (画像提供・メイドインジャパン・ハラール支援協議会)

 「おいしさ」というものは、文化や宗教、民族の違いによって大きく異なります。特に、世界の中でも宗教心が人々の食習慣を深く支配している国の一つがインドです。人口の約8割をヒンドゥー教徒が占めるインドでは、食の禁忌が人々の生活に深く根ざし、その食文化を特徴づけています。

ヒンドゥー教徒の食の禁忌=聖なる牛と不殺生の精神
 ヒンドゥー教徒にとって、牛は「聖なる存在」とされています。そのため、牛肉を食べることは厳しく禁じられており、これはインドにおける食のタブーの中でも最もよく知られたものの一つです。インドのほとんどの州では牛保護法が制定され、牛の殺生そのものが制限されているほどです。

 また、ヒンドゥー教は、仏教やジャイナ教にも共通する「アヒンサー(不殺生・非暴力)」の精神を重んじます。この精神が、多くのヒンドゥー教徒が肉類を避ける、つまりベジタリアンである主な理由となっています。航空会社の特別機内食では、ヒンドゥー教徒向けの「ヒンドゥーミール」が提供されており、牛肉はもちろんのこと、豚肉も避けられています。代わりに、ゆでた魚、鶏肉、羊肉、魚介類、米、フルーツなどが使用され、調理の際にはアルコールも使われません。これは、宗教上の戒律が日常の食事だけでなく、旅先での食事にまで及んでいる具体的な例と言えるでしょう。

ジャイナ教徒の食の禁忌=徹底されたアヒンサー
 ヒンドゥー教から受け継いだアヒンサーの精神を、さらに徹底して実践しているのがジャイナ教徒です。彼らは、できるだけ殺生を避けるという教えのもと、肉類、魚介類、卵といった動物性食品を一切口にしません。この点は、動物性食品を避ける「ベジタリアン」の中でも、「ビーガン」と呼ばれる完全菜食主義者に近い食習慣と言えます。

 しかし、ジャイナ教の食の禁忌はそれだけにとどまりません。彼らは、根菜類や球根類(例=大根、玉ねぎ、ニンニク、ショウガなど)の地中で育つ野菜も食さないという特徴的な戒律を持っています。これは、根菜を収穫する際に、土中の小さな微生物や昆虫を誤って殺生してしまうことを避けるため、また、植物の生命そのものを奪うことを極力回避するためと考えられています。

 インドでは、このようなヒンドゥー教やジャイナ教の教えから、人口の半分以上が宗教上の理由で肉類を一切食べないベジタリアンであるといわれています。その他にもムスリムも2億人ほどいるといいます。インドは、まさに食の禁忌が民族や宗教のアイデンティティーを守り、彼らの信仰と生活様式を明確に示している国と言えるでしょう。

 (メイドインジャパン・ハラール支援協議会理事長)


食の禁忌は、民族や宗教のアイデンティティーを守り、信仰と生活様式を明確に示している
(画像提供・メイドインジャパン・ハラール支援協議会)

 
 
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