宿泊施設は災害時の「ラストリゾート」に JARCが協議会発足


第1回協議会の様子

 一般社団法人宿泊施設関連協会(JARC)は9月9日、宿泊施設が災害時に地域住民や観光客の「ラストリゾート(最後のよりどころ)」となるための対応策を検討する「ラストリゾート協議会(正式名称:災害時の宿泊施設の避難者等受入についての協議会)」を発足した。第1回協議会では、参加した宿泊施設の災害対応の現状や課題、地域住民の避難受け入れに関する法的根拠などについて議論。今後の宿泊施設のBCP(事業継続計画)作成につなげていくことを目指す。

各施設の現状と課題を共有

 協議会には、都市部から温泉地まで多様な宿泊施設の代表者が参加。ホテルかずさやの工藤哲夫代表取締役社長、ザ・キャピトルホテル東急の曽我部俊典総料理長、伊豆修善寺温泉新井旅館の相原昌一郎代表取締役、ホテルコンチネンタル府中の大住佑総支配人、ロッテシティホテル錦糸町の原邦彦オペレーション課マネージャーが出席した。議事進行は観光レジリエンス研究所の高松正人代表が務めた。

 参加者からは、それぞれの施設の現状や取り組みが報告された。工藤氏は「当社のBCPは策定済みだが、時代に合わせた更新が必要だ」と述べた。相原氏は川沿いに位置する同館が台風による水害に弱いという歴史があるとし、「2メートルまで耐えられる鉄板製の自家製防潮堤を設置している」と対策を紹介した。

 大住氏は「2019年の台風19号で多摩川氾濫による浸水被害を経験した」とし、「現在は多摩川のハザードマップに基づき、お客様に避難場所を伝える対応をしている」と語った。

災害予想時と発生時の対応を議論

 協議会では、災害が予想される場合と突発的に発生した場合の対応について議論が交わされた。内閣府の防災パンフレットでは「安全なホテル・旅館への立ち退き避難」が避難行動の一つとして推奨されているが、「通常の宿泊料が必要」「事前に予約確認」が前提となっていることが確認された。

 一方で岐阜県下呂市では、自治会が主体となって近隣の宿泊施設4軒と「ホテル・旅館避難所協定書」を締結。警戒レベル3「高齢者等避難」が発令された場合、住民は通常より廉価な料金で宿泊施設を避難先として利用できる取り組みが紹介された。

 災害発生時の対応では特に「不快」「不便」「不安」という3つの「不」を軽減することの重要性が指摘された。北海道胆振東部地震後のアンケートでは、外国人観光客が最も不便に感じたのは携帯電話の充電ができないことだったという報告もあった。

災害後の避難者受け入れと経営判断

 災害発生後の避難者受け入れについては、「一時避難」「二次避難」「福祉避難所」の役割の違いを整理。内閣府は避難が長期化する場合、ホテルや旅館を実質的な避難所として活用するよう推奨していることが紹介された。

 災害救助法では、ホテル・旅館を避難所として活用する場合の費用として、1人1泊3食付きで税込7,000円以内が基準額と定められているが、この金額で受け入れが可能かどうかは宿泊施設にとって大きな課題となる。

 「災害発生時の避難者受け入れは、経営判断として事前に方針を固めておく必要がある」との意見が出され、「受け入れるのか」「受け入れないのか」、あるいは「どのような条件なら受け入れるのか」を事前に検討することの重要性が確認された。

 災害時には避難者以外にも、DMAT(災害派遣医療チーム)や警察、消防、電力・通信事業者、ゼネコン、損保会社などの災害対応関係者の宿泊需要も生じることが指摘された。

 JARCは今後、10月7日に第2回、11月10日に第3回の協議会を予定しており、宿泊施設の災害対応の具体的な対策について議論を深めていく方針だ。

第1回協議会の様子

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 
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