
JTBは1日、訪日インバウンドに関する新たな事業戦略「訪日インバウンドVISION2030」を発表した。自治体や事業者との「共創」「創客」をキーワードに、地域が抱える課題を解決しつつ、世界トップレベルの持続可能な観光立国の実現をリードする。販路の多様化やデータ基盤の確立に向けては、訪日インバウンドに関する観光素材の登録や販売管理などを一元化する社内システムを構築。グループ全体で推進する体制も整備し、2030年度の訪日インバウンド事業領域における取扱額を25年度比2.7倍、売上総利益を2.9倍に増やす。
山北社長「地域全体を良くする流れ作る」
JTBの山北栄二郎社長は1日、本社で事業戦略を報道陣に発表した。訪日インバウンドには、オーバーツーリズム、滞在先の大都市への集中などの課題があるが、市場動向を踏まえれば、成長の余地は大きいと指摘。「世界トップレベルの観光立国になるため、旅行者向けのサービスだけではなく、地域自体をしっかり良くする流れをつくっていく」と述べ、地域との共創やデータの戦略的な利活用を重視し、訪日インバウンドの持続可能な成長を目指す考えを示した。
自治体や事業者などとの「共創」「創客」については、観光産業にとどまらず、訪日外国人旅行者を基軸に、課題を抱える地域・事業者にソリューションを提供することで、「世界から選ばれる国であり続けるための地域ごとの魅力・価値を創出する」としている。
JTBの山北栄二郎社長
六つの事業領域に加え「訪日目的の創出」も
戦略の推進に当たって事業領域を整理した。
(1)BtoC
(2)提携販売(パートナー企業)
(3)旅行会社・ランドオペレーター(海外エージェント)
(4)BtoB/コーポレート
(5)プロモーション(法人プロモーション)
(6)BtoG(自治体・官公庁)
以上のの六つの領域に加え、「+1領域」として「訪日旅行者が『日本を訪問する目的』を創出できるサービスやコンテンツの開発・開拓・投資の実行」と設定。それぞれの領域に対応する部署や組織も明確化した。
◆ツーリズムHUB
大規模な投資を行い、社内システムを整備する。訪日インバウンドの新たなデータプラットフォーム「JTB Tourism HUB」を構築し、2026年春以降の本格運用を目指す。訪日インバウンドに関する観光素材の登録管理、販売管理などを一元化し、自社販売や従来の提携販売だけではない、グローバルで多様な販路を創出。宿泊施設や飲食店、アクティビティ事業者、観光施設、交通機関などに新たな流通チャネルを提供する。
JTB訪日インバウンド共創部長の寺本巧氏は「宿泊の素材だけでなく、例えば、人気のチケット類や2次交通など、さまざまなコンテンツ、情報をセラーに渡しやすいシステムを開発する。グローバル規模のセラーになかなか商品を流通させられない、なかなか販売できない、といった課題の解決につなげたい」と説明した。
新システムによる流通においては、例えば、日本旅館の宿泊プランのスムーズな販売も重視する。1泊2食付きのプランや子ども料金の設定など、世界的には一般的ではないサービスモデルをグローバルOTAなどに理解してもらえるよう、情報の提供、流通を工夫していくことも課題の一つに挙げている。
また、システムを活用することで新たな商品を造成する。その一つが「ランドクルーズ」(現地発着の周遊ツアー)。JTBグループのヨーロッパムンドバケーションズ社が欧州で提供しているような乗合型周遊バス(シートインコーチ)事業を日本国内で展開する。北海道でのフィールドテストに向けて、旅行者、地域、双方のニーズを分析し、今年度内にも事業を具体化できるよう準備を進める。
◆ONE JTB
訪日インバウンドの事業戦略は、「ONE JTB」を合言葉にグループ全体で推進する。組織体制では、グループ内の事業部門を横断する組織として「訪日インバウンド共創部」を設置しているほか、JTBグローバルマーケティング&トラベル、JTBインバウンドトリップなどの専門会社に加えて、国内営業拠点での地域に根差した取り組みを強化している。
具体的には、首都圏、関西圏に加え、地方エリアごと(北海道、仙台、名古屋、広島、福岡、沖縄)に、訪日インバウンド推進個所を設定した。これまで地域交流事業を推進してきた全国の拠点「47DMC」では、新たに150人のインバウンド従事者を地域の課題解決に対応させる。
また、海外拠点や海外グループ会社を通じて訪日外国人旅行者のニーズを捉えて、発地(海外)と着地(日本)の双方から訪日インバウンド事業への取り組みを強化する。
5年後目標は取扱額2.7倍、売上総利益2.9倍に
事業目標としては、設定した「6+1」の事業領域における取扱額を現状の約2・7倍、売上総利益を約2・9倍にする。JTB常務執行役員訪日インバウンドビジネス担当の山田仁二氏は「この目標は市場の伸び率予測を上回る目標だが、JTBだけではなく、各地域の皆さまとともに、訪日インバウンドに関する地域課題を解決することで達成は十分可能だと考えている。2030年に向けての5年間、ビジネスの機会をしっかりと捉え、地域および日本全体の経済発展につながるよう注力したい」と述べた。