【私の視点 観光羅針盤 483】宿泊税・入湯税の歴史と二重課税 吉田博詞


 昨今、宿泊税の導入が各地で進み、議論も活発化している。これに類似する取り組みとして入湯税があるが、両者の歴史的背景や今後の両立の展望に関して掘り下げてみたい。

 歴史的に長いのは入湯税である。明治時代にさかのぼるが、1879年に銭湯・鉱泉浴場への雑種税として法整備された後、1947年に地方税法改正によって道府県による入湯税が正式に導入された。1950年には市町村徴収が可能となり、1957年には目的税に位置づけられ、1971年から消防施設保全、1977年に鉱泉源保護、1990年には観光振興がその用途に加えられた。現在、多くの温泉地では20~150円の税率が一般的で、超過課税をしている地域も増えてきている。2024年度には約千の自治体で導入され、2023年度の全国税収合計は約219.1億円にのぼる。1位の箱根町では6・2億円の税収となっている。

 一方、宿泊税は比較的歴史が浅く、2002年に東京都で国内初の取り組みとして1泊1万円以上の宿泊に対し100~200円を課税する仕組みで始まった。その後、2017年に大阪府、2018年に京都市、2019年に金沢市など主要都市へ拡大し、2025年時点で導入を検討・予定している自治体を含めると20以上に広がっている。宿泊税は都市部のインフラ整備やMICE振興の資金源として重要な役割を担っている。上位の京都市では2023年度に約52億円の税収となっている。

 ここで議論になるのが、入湯税と宿泊税の二重取りである。1人の宿泊者に対し宿泊税と入湯税が課される構造は、過剰な負担感を与える恐れがあると指摘されている。全国ではすでに京都市、金沢市、福岡市、北九州市、ニセコ町、倶知安町などで、両税の徴収が行われている。例えば京都市では、入湯税は鉱泉源の保護管理と観光振興(観光宣伝や観光調査)、宿泊税は京都ならではの文化振興・美しい景観の保全、市バス・観光地等の混雑対策、宿泊事業者支援・宿泊観光推進などを対象に目的を明確に分けている。金沢市においては宿泊税を観光まちづくりの構成要素として、文化・歴史・快適性を高める施策に使途を限定し、入湯税は温泉利用に直接必要なインフラ整備や衛生・防災設備への投資に主眼が置かれているのが特徴だ。両税ともに「地域再投資」を目的として導入されている中で、しっかりと使途やその効果を明確に分けて実行していければ、両立はできうるものとして考えられる。

 なお、その目的が混雑緩和等、地域住民にとってもメリットがある展開に進化されていくことが特に期待される。受益者負担によって、よりよい環境整備の好循環が生まれれば、地域住民の納得感が得られるとともに、来訪客もより快適な環境で過ごせる状況になっていくだろう。そのためにも、地域課題の明確化、地域ビジョンの共有、課題の優先順位付けについて、地域住民との丁寧な議論を積み重ねていくことが必要だ。注目される財源だからこそ、その背景や特性、先進事例を理解しながら対応していきたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
 
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