
旅館の食には課題が多く、働き方のカイゼン・動線のカイゼン・食品ロスのカイゼン・食器洗浄のカイゼンがある。食は旅館で唯一の製造工程があるばかりでなく、食事の提供という旅館にとって重要なサービスがあり、客室や浴室の改修と違い、仕入れ↓仕込み↓調理↓配膳↓下膳↓食器洗浄と一連の流れがあって関係者も検討項目も多い。
現在の厨房は大広間で団体食を効率的に提供するシステムであったものを、個人向けに、主にビュッフェスタイルでの提供に修正している。はじめに働き方のカイゼンから考えてみたい。旅館の働き方で問題になるのは中抜け勤務である。
これは団体向けの勤務体系で、午前中に天ぷらなどの調理、冷料理盛り付けを行い、一度完成品を温蔵庫、冷蔵庫で保管する。昼ごろから15時ごろまでの中抜け休憩後に夕食の仕上げと盛り付けをして、勤務時間の関係でお客さまが食事される頃には厨房での作業は終えている。
レストランでは、売り上げが一番高い時間帯に人手をかけるのが常識で、その意味で旅館の調理は常識から外れている。最近は調理師が不足し、調理師がいない旅館もあり、調理師学校では和食の人気がなく、パティシエなどに流れている。中抜け勤務を止めて、調理場の労働環境を改善しないと若い人が居つかなくなる。午後からの通し勤務で食事時間に出来たてを提供する方法に変えれば、調理場の働き方カイゼンになる。
もう一方の食事の提供にも問題がある。旅館は1泊2食のためか食事の開始時間が集中し、スタッフは下膳とバッシングに時間を取られ、肝心のサービスに手が回らず、飲料のオーダーが取れていない。テーブル数に合わせてお客さまを入れるのでなく、スタッフサービスの質を確保できる入り込み数で決めたい。下膳や食器を洗浄室まで運ぶには配膳ロボットを活用するなど、機器導入やレイアウト変更などバック作業は人手が掛からないよう改善したい。
夕食時間として決められた18時前後から21時までの3時間から4時間の間にサービスを均等にすることで、お客さまもゆっくりと料理とお酒を楽しめる。そうすれば調理場も時間に余裕ができ、作り置き無しで出来たてを提供し、完成品の冷蔵庫、温蔵庫への出し入れ作業や、機材と広い配膳台が不要になる。電磁調理器や多機能調理器を導入して、タイマーで自動調理するコンパクトキッチンは人手が掛からない。調理のカイゼンは働き方の見直しに合わせて行わないと、せっかくの設備が機能しない。食のカイゼンは効率化の追求でなく、食の付加価値向上が目的であることを忘れてはならない。
(国際観光施設協会理事、エコ・小委員会委員長、日本建築家協会登録建築家、佐々山建築設計会長 佐々山茂)