近郊電車に乗ると、子どもの姿が減った、と感じることがあります。学校のある平日はもちろん、夏休みに乗っても、昔ほど子どもを見なくなりました。特に都心から離れた、郊外区間で顕著です。マイカーの普及で、家族でのお出かけに電車を使わなくなった、という事情が大きいのでしょう。しかし、それ以上に、沿線の子どもの人口が減っていることを実感します。
国の統計によれば、2024年の年少人口(15歳未満)の割合は11%。1985年には21%でしたので、40年間で半減しています。沿線の子どもが減れば、将来の沿線人口が減るのも避けられません。鉄道会社にとっては死活問題です。
そのため、私鉄各社は、小児運賃を割り引く施策を打ち出しています。子育て世代が暮らしやすいことをアピールして居住を促し、沿線人口の減少を食い止めようというアイデアです。
直近では、西武鉄道が2026年3月の運賃改定に合わせて、小児IC運賃を50円均一にすると発表しました。通学定期券は1カ月500円、全線乗り放題定期券は1カ月1千円です。
小児運賃の割引は、小田急電鉄が2022年に50円均一を打ち出して先鞭(せんべん)を付けました。首都圏では、京浜急行電鉄も75円均一で導入済みです。東急は通学定期券を3割値下げし、東武や京王では、小児運賃をポイント還元する施策を導入しました。
そんなに大盤振る舞いして大丈夫かと思ってしまいますが、子どもの利用者は少ないため、経営への影響は大きくないそうです。「ファミリーに優しい沿線」と訴求できるなら、割に合う話なのでしょう。
また、ファミリー層は、鉄道以外の消費額も大きいので、沿線住民が増えれば関連事業の増収につながります。小田急、京急、西武は、いずれも終点付近に観光地を抱えますので、小児運賃を値下げすることで、鉄道でのお出かけを促す狙いもありそうです。
JRは、今のところ小児運賃を割り引く施策はとっていません。一部の企画きっぷで、小児価格を低く設定しているくらいです。JRは広く路線網を構築しているので、特定の沿線に居住を促すという施策を、とりづらいのでしょう。
ただ、手をこまねいていると「家族で住むなら私鉄沿線」ということになってし
まいそう。JRでも、沿線住民に向けた独自の子育て世代への支援策の導入を期待したいところです。
(旅行総合研究所タビリス代表)=月2回掲載




