
「夏休みの予約ペースが昨年の7割未満にとどまっている」「値引きしなければ予約が入らない」。2025年6月以降、価格競争の激化により宿泊単価の相場が崩れ、期待した収益の確保が難しくなっている。単なる値下げや販促強化では対応に限界がある。こうした環境変化の背後にある構造的な変化を見抜く視点が求められる。
現在の宿泊業において、口コミ点数はもはや単なる評判ではない。GoogleやOTAに表示される口コミ点数は、検索順位や表示優先度、予約転換率(CVR)に直結する。わずか0・2ポイントの変動でもクリック率や予約成約率が大きく変わる。にもかかわらず、「たまたま辛口の投稿があっただけ」と片づけ、口コミ点数と予約件数の因果関係を軽視する施設は少なくない。
特に、繁忙期に高稼働を追いすぎた結果、清掃や接客の質が低下し、口コミ点数が落ち込むケースが目立つ。中小規模の施設では、フロント対応や食事中の気配り、チェックアウト時の一言までが、そのまま評価に跳ね返る。こうした日々の接点が宿泊体験の印象を大きく左右し、将来の集客力に影響を及ぼす。
口コミ点数と売り上げには、通常1~2カ月のタイムラグがある。点数が下がれば、数週間後から1カ月ほどで売り上げの減少が始まる傾向があるため、週単位でスコアを記録・分析し、変化の兆しを早期に察知することが大切である。口コミは過去を評価するものではなく、将来の業績を予測する経営指標と捉えるべき段階に入っている。
設備面での競争も看過できない。近隣施設がリノベーションを実施すれば、自館の設備は相対的に古く見える。清潔感や設備、浴場などのレビュー項目では、老朽化の影響が顕著に表れる。補助金を活用した改装ブームは一服したが、継続的な修繕・更新投資は不可欠である。多額の投資が難しい場合でも、照明や香り、館内サインの改善、清掃チェックリストの再整備といった小規模な取り組みでも、十分に点数改善につながる。
稼働率が伸び悩む今だからこそ、自館のサービスや施設品質を総点検する好機と捉えたい。あえてこの期間を「磨き上げの準備期間」と位置づけ、次の成長局面に備えた内部改善を着実に進めておくことで、中長期的な競争力に差が生まれる。
サービス品質を維持できないまま、高稼働を追うよりも、受け入れ数を調整してでも、口コミ点数の維持・改善を優先する判断のほうが、将来の売り上げ最大化につながる可能性が高い。
口コミ点数の意味と影響力を経営陣と現場が共通認識として持ち、日々のオペレーションに反映できるかどうかが問われている。環境変化の予兆が見られる今だからこそ、その実行力が試されている。
(アルファコンサルティング代表取締役)