
大規模な洋上風力発電が展開される石狩市
新たな魅力を備えた北海道に
雄大な自然と独特の歴史文化を持つ北海道。民間研究機関の都道府県魅力度調査で16年連続1位に選ばれるなど魅力いっぱいの地域で、観光資源も多く、国内外からたくさんの人が訪れる。北海道の面積は、国土の22%を占める。道都「札幌」がある道央圏を中心に、サハリンを望む道北圏、津軽海峡を挟んで本州に接する道南圏、そして、北方領土や流氷の海に続く道東圏までと、非常に広い。
そこに全国最多の179市町村がある。それだけに地域の個性は豊かで、環境、SDGs、共生、防災などさまざまなテーマでの修学旅行が実施できる地域でもある。いま、新型コロナの影響を受けた修学旅行も、2019年前の状況にと回復しつつあり、北海道では、改めて官民一体となって、道外からの誘致拡大に向けて積極的な取り組みを進めている。
新たな魅力となる施設や取り組みが
道外からの修学旅行は、新型コロナの影響で2020年度には以前の2万6212人と7分の1に、21年度も約3分の1の7万9689人にと減少した。その後、5類移行を受けて、22年度には1146校、16万2063人にと回復してきた。
しかし、修学旅行を巡っては、物価の高騰やバスのドライバー不足、オーバーツーリズム、温暖化による災害リスクなどの問題が生じるとともに、「総合的な学習(探究)の時間」の設定に伴う学校側のニーズも変化。これらに対応した受け入れが求められている。
そうした中で北海道では、16年の北海道新幹線の函館開業後も、従来から広く知られる観光資源だけでなく、新たな教育旅行学習のコンテンツとなる魅力ある施設や取り組みがたくさん生まれてきている。
20年には先住民族であるアイヌの歴史・文化の復興拠点となる民族共生象徴空間「ウポポイ」(白老町)が開園し、21年には「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界文化遺産登録が実現。
23年には日ハム球団のスタジアムを中心とする「ボールパークFヴィレッジ」(北広島市)のオープンや、大規模な半導体企業(千歳市)の立地。さらに先端技術の農業分野での 拡大、宇宙産業へのチャレンジ、アドベンチャートラベルの活発化などだ。
北海道観光機構では、これらを生かしたコンテンツづくりを進め、道や関係団体と連携して、新たな魅力を加えた北海道を全国にPRし、修学旅行の誘致拡大に取り組んでいる。
”脱炭素”の先進地、石狩市で学ぶ
■「石狩鍋」発祥の地
道都「札幌」に隣接し、北海道の母なる川・石狩川の河口に位置する石狩市。かつてサケとニシン漁でにぎわい、郷土料理「石狩鍋」発祥の地としても知られる。
このまちが、近年は脱炭素の先進地として国際会議の場で紹介されるなど、注目を集めている。
大規模掘り込み式の国際貿易港「石狩湾新港」があり、全国に先駆けた洋上風力発電所が稼働。新港の背後にある3千ヘクタールの工業団地には、再生可能エネルギーを活用したデータセンターの立地が活発で、世界につながる新港の機能を生かした脱炭素型のまちづくりがたくましく進められている。
■地産地活のまちづくり
国の再エネ普及に向けた制度が整備されたのが2012年。これを受けて陸上風力や太陽光、木質バイオマスなど多様な再エネ電源の集積が始まった。
市では、「地域でつくられた再エネを地域で活用する」という意味を持つ「地産地活」が合言葉。洋上風力発電など、集積が著しい地元産再エネを強みに、脱炭素化が求められているデータセンターを積極的に誘致している。これが持続可能な市政運営の財源確保や経済振興、地域のデジタル化につながっている。
加えて、再エネのまちづくりを生かした教育旅行の誘致も手掛ける。
全国の若い人たちに来てもらい、実際の現場を見て学び、持続可能な社会を考える、その場を提供する方針だ。
そして、国内のDX・GX人材の育成や交流人口の拡大にもつなげたいと思いは熱い。
大規模な洋上風力発電が展開される石狩市
■杉並工科高校との連携
こうした中で昨年12月に行ったのが、GX・DX人材の育成を掲げる東京都立杉並工科高校との連携協定締結だ。
25年度から探究的学習の文脈も踏まえ、同校の教育旅行を継続的に受け入れる。
生徒たちに事前学習で市の歴史や課題を知ってもらい、実際の現場で洋上風力発電やデータセンター、デジタル技術を活用する地場産業を見学し、学び、考えてもらう。また、地元の中学生との交流も計画している。
このたびの教育旅行を通じた交流がしっかり根付き、発展していくことが楽しみだ。
石狩市=人口・5万6931人(5月現在)▽面積・約722平方キロ▽市の花・ハマナス▽市の木・カシワ▽市の鳥・カモメ
石狩市企業連携推進室課長・加藤 純さんに聞く杉並工科高校との交流
オーダーメイド型教育旅行を提案
――杉並工科高校とはどんな交流を。
11月にIT・環境科の2年生80人を受け入れます。実際の開発現場や自然保護施設などを見学し、その取り組みや課題を学んでもらいます。
地域が存続し発展していくためには、変革を起こす人材が求められています。市民の方々との交流を通じて地域に寄り添う共感力や課題を抽出する感受性などを養う、机の上で学べない機会になればと願っています。
地元一丸となって受け入れます。
――今後に向けた取り組みと期待を。
新港地域が全国の探究学習のフィールドになればと考えています。
市が進める再エネの「地産地活」による産業おこしやまちづくりの取り組みを生かし、「脱炭素」「デジタル」「地域課題」への対応をテーマとしたオーダーメイド型の教育旅行を提案することで、若い世代を呼び込み、将来的な石狩市の発展につなげたいと考えています。
加藤課長