
国土交通省は6月13日、鉄道分野における技術の標準化活動を戦略的かつ効果的に推進していくための「鉄道技術標準化ビジネスプラン」を策定した。国内の人口減少による利用者減や技術者不足、世界的な鉄道市場の拡大を背景に、国際競争力の強化と国内鉄道事業の持続的発展を目指す。本邦企業の海外受注機会拡大と、国内鉄道ビジネスの効率化・活性化を両輪とした取り組みだ。
国際規格への日本技術の反映を強化
世界の鉄道供給市場は2027~2029年には年平均約39兆円に達すると試算されている。特にアジア太平洋地域は全体市場の約35%を占め、車両やインフラを含む幅広い分野で成長が予想されている。この成長市場を見据え、日本の鉄道技術や仕様を国際規格に反映させる取り組みを強化する。
ビジネスプランでは「国際規格開発体制の強化」を掲げ、すべての実施主体が国際競争力強化のために必要な技術の国際規格化を検討・提案することを明記。また「内外の関係者との連携と協調に基づく国際規格審議の促進」を通じて、日本の設計思想や技術が反映された国際規格の実現を目指す。
国内の効率化にも標準化を活用
人口減少や技術者不足という国内課題に対応するため、ビジネスプランは国内の鉄道事業の効率化や技術の言語化・明文化も重視している。事業者間での装置・部品等の共通化や、状態基準保全(CBM)、無線式列車制御システム、自動運転、水素燃料電池鉄道車両等の導入を検討する際に、必要に応じた標準化を推進する方針だ。
これまで暗黙知とされていた技術を明文化することで、効率的な事業運営や技術継承につなげる。国際標準化の動向を踏まえながら、将来の国際標準化を視野に入れた国内標準化を基本とする。
認証体制の拡充も課題
海外ビジネスでは製品の品質や安全性の第三者による適合性評価が求められる傾向が強まっている。この動きに対応するため、2011年に設置された交通安全環境研究所の鉄道認証室の体制強化を図る。
認証機関としてのブランド力向上や認証対象規格の拡充を目指すほか、欧州規格への対応も検討。また本邦企業が自社製品の規格適合性を証明する際に必要となる国内支援体制の整備も進める。
人材育成も重要な柱
国際規格は審議を経て開発されるため、専門技術力に加え高度な調整力・折衝力が求められる。ビジネスプランでは標準化活動に取り組む人材の育成も重要な柱と位置づけ、実務担当者向けの人材育成プログラムの実施や、経営幹部に対する標準化活動理解促進の取り組みを進める方針だ。
さらに企業においては標準化活動をキャリアパスに位置づけるなど、その裾野拡大にも努める。
コンサルティング能力の強化も
海外案件、特にODA案件において日本の技術仕様が採用されない場合があるという課題に対し、コンサルティング能力の強化も図る。国外の地域規格等が採用された事例を収集・検証し、日本の技術を提案できるコンサルティング能力を高める。
また海外では鉄道システム全体のインテグレーションをコンサルタントに委ねられる場合があるため、システム全体をコーディネートできる能力を強みとしていく方針だ。
5年ごとに見直し、実効性を確保
ビジネスプランの実効性を確保するため、具体的な取り組み・実施主体・作業スケジュール等を定めたロードマップを策定。各実施主体はロードマップに基づく実行結果を「鉄道技術標準化調査検討会」に報告し、同検討会が実行結果をレビューする仕組みだ。
世界の動向や技術の進歩、取り組みの進捗状況等を踏まえ、5年を目処に見直しの検討を行う。ただし社会情勢が大きく変化し、プランに基づく対応が困難になった場合は随時見直しを行うとしている。
国内外の調和を目指す
「我が国の鉄道システムの国際競争力の更なる強化をはじめとした我が国の鉄道事業及び鉄道産業の持続的発展」を目的に掲げたビジネスプラン。国内関係者が一丸となって標準化活動を実施していく。
実施にあたっては、国際標準化活動が諸外国との連携・協調の下に成り立っていることを意識し、海外ビジネスと国内の事業環境の調和を図りながら、日本の鉄道の持続的発展につなげていくとしている。官民一体での取り組みに期待が集まる。