
国内OTAの大手3社と、スタートアップのkabuk styleが登壇した
国内外のオンライントラベル関係者が集まる国際会議「WiT(ウェブ・イン・トラベル)ジャパン&ノースアジア」が26、27日の2日間、ウェスティンホテル東京(東京都目黒区)で開かれ、多数の講演、セッションが展開された。AIをはじめとする「トラベルテック」のキーパーソンが多数登壇し、自社の業況や旅行動向の分析、旅行ニーズの変化や今後の旅行トレンドの展望などについて意見を交わした。27日に開かれた国内OTAのトークセッションでは、JTB、楽天グループ、リクルートと、OTAスタートアップ・KabuK Styleの4社が登壇。グローバルOTAとの協業やAI活用、インバウンド戦略について議論を交わした。
登壇者
●JTB Web販売事業部長 岩田淳氏
●楽天グループ コマース&マーケティングカンパニー トラベル&モビリティ事業 事業戦略部ジェネラルマネージャー 皆川尚久氏
●リクルート 旅行Division Vice President 大野雅矢氏
●KabuK Style 代表取締役 砂田憲治氏
司会
ベンチャーリパブリック 代表取締役社長 柴田啓氏
グローバルOTAとの向き合い方
「脅威」と捉えず、協業を模索
冒頭、楽天グループの皆川氏は、グローバルOTAが持つ各国でのネットワークの強さを、「カントリーリスクなどの外部環境の変化に強い事業構造になっている」と説明。
楽天の皆川氏
リクルートの大野氏も賛同しつつ、「グローバルOTAは脅威というよりも、一緒に戦っていくパートナーでもある。手を組んでビジネス展開している面もある」と強調。JTBの岩田氏も、「テクノロジーに関する力やデータ活用など、考え方は一番勉強になる」と協業によるメリットに言及した。
リクルートの大野氏
JTBの岩田氏
KabuK Styleの砂田氏は、グローバルOTAを目指すか聞かれると、「目指したい。ニッチ戦略も含め、グローバルで積み上げていく方が、可能性があると思う」と熱意を語った。
KabuK Styleの砂田氏
2025年の実績予測について、楽天グループの皆川氏は「国内は伸びが落ち着いているがインバウンドを中心に伸びていくとみている」と説明。JTB、リクルートの2社も同様の回答で、リクルートの大野氏はインバウンドが地方に分散する傾向があることも報告した。
AI活用による10年後予測
より便利になる一方、旅での感動体験が貴重なものに
AI活用については、「10年後に旅行はどのように変わるか」という視点で意見交換が行われた。楽天グループの皆川氏は、旅行の検討から予約の完了まで一気通貫で管理できるようになると予測。パーソナライズされた世界の到来や、ユーザーインターフェース(UI)も、これまでと全く異なるユーザー体験が提供できるようになるとした。
JTB岩田氏は、AIのサポートによる便利な旅行と、あえてAIに頼らない「偶然の出会い」のある旅行の両極化が進むと主張。AIが主流になった世界では、旅先での「感動」がより貴重なものになると真逆の予測を展開した。
リクルートの大野氏は、旅行者と観光事業者をつなぐマッチング精度が高まると予測。「10年後を予測するのは難しい。大きなイメージを持ちながらも、その時代に即した打ち手を展開する努力を続けていくことが大事だ」と強調した。
さらなる発展には、業界特有の課題も
一方、KabuK Styleの砂田氏は「10年後には何も変わらない」と予測。AIの活用によってイノベーションを進めるには、進歩する技術を企業が使いこなすことに加え、業界内でのデータの標準化や共有の壁を打破することが必要との認識を示した。これらの課題が解決すれば、旅行業界はもっと発展できると持論を展開し、業界特有の問題を指摘した。
AI活用の現状については、各社で取り組みの内容が分かれた。リクルートでは昨年AIチャットサービスを導入し、利用者の予約率の向上を確認。大野氏は「まだ活用している数自体が限定的。全面的な導入に至っていないのが現状だ」と説明した。
JTBの岩田氏も、「この1年間で社員の意識改革から始め、ようやく議論が進んでいる。マーケティングオートメーション(MA)などでは実際に打ち出しているが、お客さまに向けたサービスとしてはまだ研究が必要だ」と説明した。
楽天グループの皆川氏は、「グループのAIを活用し、AIコンシェルジュのサービスを試験的に導入実験している」と報告。「ユーザーの動向を見ながら改善を重ね、実用化に向けて頑張っている」と説明した。
KabuK Styleの砂田氏は、2018年の創業以来同社が展開しているサービスとして「価格の予測」「行動の予測」「キャンセルの予測」を紹介。加えて、客室タイプの表記方法が統一されていないことでDXが進まないという日本の宿泊施設特有の問題にも言及し、現在はこうした客室タイプのマッピングに注力していると報告した。
各社ともAIの活用方法を模索している状況を報告した
インバウンド戦略では、各社とも今後3年間で大幅な成長を目指すと説明。楽天は多言語対応の拡充と現地マーケティングの強化を、JTBは5倍の成長を目標に掲げる。リクルートはグローバルOTAとの協業を通じた成長戦略を展開する方針とした。