
旅ホ連支部会員とJTB営業社員による合同商談会「拡大キャラバン」後の懇親会であいさつする宮﨑会長(2024年12月)
JTB協定旅館ホテル連盟(JTB旅ホ連)は、2025年度事業計画の基本テーマを「JTBとの戦略的パートナーシップの深化による宿泊増売と会員施設安定経営への貢献」とする方針だ。基本テーマでは、JTB旅ホ連とJTBの「戦略的なパートナーシップ」をより踏み込んだ連携とするため、「深化」というワードを追加。会員施設の経営サポートでは、前年度の「経営基盤の強化」から、「安定経営への貢献」とし、加盟メリットを強調する表現とした。事業戦略は「宿泊増売」と「地域振興・観光振興」、事業基盤には「人財育成」と「組織強化」を柱に据える方向だ。事業計画の案を基に取り組みの方向性を紹介する。
基本テーマを補完するサブテーマは、「『四方良し(お客様・地域・JTB・旅ホ連会員)』の精神で、ツーリズム産業の持続的な発展を成し遂げる」。「四方」は前年度と同じ4者だが、地域からツーリズム産業の発展へと視野が広がるよう「地域」の表記順番を繰り上げた。
JTBグループの事業ドメイン「交流創造事業」の源泉「つなぐ・つくる・つなげる」を踏まえ、「相互共栄に向けた連携を『つなぐ・つくる・つなげる』」を目指す。「お客さま(ファン)」の満足度と評価の追求、「地域(エリア)」の面での繁栄、「JTB(パートナー)」との共創・協業・共生、「旅ホ連会員(企業)」の安定経営・永続的発展の実現につなげる。
JTB旅ホ連が「あるべき姿」に掲げているのは、「“旅のチカラ(文化・交流・経済・健康・教育+環境・幸福)”を実感できる価値」を提供し続ける経済団体(組織)。事業戦略、事業基盤の重点項目を企画委員会、販売促進・情報委員会、インバウンド委員会、人財・組織強化委員会がそれぞれ担当して推進する。
旅ホ連の宮﨑光彦会長は「JTBとの戦略的パートナーシップを深化し、宿泊増売と会員施設の経営基盤の安定強化に貢献していきたい。
旅の持つ力は、文化・交流・経済・健康・教育、加えて環境などに及ぶが、最大の力は、人を幸せ(幸福)にすること。旅ホ連は、それを実感できる価値を提供し続ける経済団体でありたい。ツーリズム産業の持続的な発展と日本を元気にするため、『四方(お客様・地域・JTB・旅ホ連会員)良し』の精神で取り組む」との方針を示している。
事業戦略の推進に当たっては、引き続き「JTBからの『新・4つのお願い』」を基に、旅ホ連会員に協力を求めていく。「新・4つのお願い」とは、(1)47DMC支店(法個仕個所)・各地仕入販売部との連携(2)行政(地域)にJTBが入り込むための力添え(3)地域のユニークな素材や取り組み情報の提供(4)オンライン説明会や旅先店頭での旅行相談への参画―となっている。
事業戦略
宿泊増売―28年度5000億円に向けて
宿泊販売の2025年度目標は前年度比5%増の4200億円に設定する。将来的には28年度に5千億円の目標を達成することを目指している。
25年度は、「令和の大改革」と称される新たな国内客室管理ツールへの移行の真価が問われる年と位置付ける。23年12月にリリースされた国内客室管理ツールは、旅ホ連会員施設の要望を反映させたシステムで、柔軟な客室の出し入れが可能になり、宿泊プランに応じて最適なタイミング、最適な販売チャネル、最適な価格での提供を目指している。
国内客室管理ツールについて宮﨑会長は「今年は、この”改革”の成功に向けて不退転の決意をもって旅ホ連一丸となり、画期的なツールをしっかり利活用して明確な成果を求めていく」と意欲を示し、会員施設に協力を呼び掛けている。
具体的には、宿泊販売の課題を解決し、目的を達成するため、新たな国内客室管理ツール導入に伴う「JTBとの相互取組み」として次の施策を掲げている。
(1)「宿泊日から364日前」~「受注ピーク手前まで」の早期施策の展開に向けた提供客室数の維持・拡大(休前日・特定期間を含めて全日110%以上)
(2)JTB手配プランヘのマーケット・販売環境に応じた料金リバイスの徹底
(3)お客様ニーズに合致した高額・高品質な未提供客室の新規提供
(4)訪日インバウンド販売拡大に向けた早期販売施設率の向上(るるぶ・JAPANiCAN〈施設登録型〉185日先販売中施設率80%以上)
(5)法人・団体販売に向けた提供客室の品揃え・客室管理(減員時の戻入)
また、宿泊増売会議や、全国均一での仕入営業を強化するためにJTBが進めている仕入営業の「コンピテンシー化」(成功モデル化)を進化させ、共に宿泊販売の目標達成を目指す。商談会「拡大キャラバン」などを25年度も開催するほか、会員数拡大と会員施設の宿泊販売最大化につながる仕入、販売の連動を促進していく。
■訪日インバウンド
拡大が見込まれる訪日インバウンドに関しては、訪日外国人旅行者を対象とした宿泊増売に向けて、JTB、JTBグローバルマーケティング&トラベル、JTB Inbound Tripとの連携を強化する。
訪日インバウンド向けコンテンツについては、四つのツーリズムテーマ「ガストロノミー」「アドベンチャー」「サステナブル」「メディカル」に連動した着地コンテンツの開発を引き続き支援する。誘致・プロモーションに関する支部連合会、支部への施策も拡充する。
■法人需要
法人需要の囲い込み、底上げに向けた取り組みの強化として、MICE・団体需要の獲得に向けた営業を支援する。法人向けの着地コンテンツ開発支援、会員施設における会議受け入れの促進策も継続する。
■情報発信
リアルとデジタルを活用した情報発信、その環境整備を推進する。JTB旅ホ連会員専用サイト「やどこむ」をリニューアルなどで活用しやすくし、支部や会員からJTBへの効果的な情報提供につなげる。会員誌「旅ホ連ニュース」、会員用メールマガジン「旅ホ連だより」のコンテンツを充実させ、宿泊増売につながる情報の伝達に注力する。
地域振興・観光振興―送客から創客へ 連携強化
JTB旅ホ連の事業計画を進める上で、地域振興・観光振興に関して宮﨑会長は「旅ホ連のテーマは、地域自らが新しいお客さまを創造するため、『送客から創客へ』をテーマとしている。その土地ならではの資源、魅力を存分に生かした価値ある商品をJTBと連携して企画造成、販売促進していく」との考えを示している。
■コンテンツ開発
JTBとの共創を通じて、誘客につながる地域コンテンツの開発支援を継続する。同時に、地域におけるサステナブルツーリズムヘの高い意識の定着に向けて取り組む。また、JTB旅ホ連の25周年記念事業とJTB創業70周年記念商品の位置付けで1981年に誕生した、全国各地で開催されるステージイベント「杜の賑い」に象徴されるようなJTBグループと地域との新たな共創事例の開発に寄与する。
■エリアソリューション
観光DX、観光地整備・運営支援、エリア開発を担うJTBのエリアソリューション事業や、交流の力で持続可能な地域づくりを目指す地域交流事業との連携を深化させる。JTBの地域交流チームとの連携による開発好事例の横展開を図り、地域における協働を促すほか、観光開発プロデューサーと会員施設とのコミュニケーションを通じ、事案創出の最大化に貢献する。観光DXの推進でタビナカ体験の質の向上も支援する。
■復興支援
24年1月に発生した能登半島地震ではJTBグループと連携し、被災地の復興を支援した。他の災害を含めて自然災害などに対する風評被害対策、反転攻勢に向けた主体的な取り組みを継続する。JTBとの連携による正確な情報発信と販促強化の実施を継続するほか、地域の事情を考慮しながら被災地での研修や会議の設定などの支援を継続する。
旅ホ連支部会員とJTB営業社員による合同商談会「拡大キャラバン」後の懇親会であいさつする宮﨑会長(2024年12月)
事業基盤
人財育成―アカデミーを通じて階層別など研修強化
人財育成の課題について宮﨑会長は「人手不足は産業界全体の現下の課題だが、宿泊業をいかに魅力あるものにしていくかが重要だ。旅館・ホテル業も各地域において就職希望上位業種となれるよう企業的経営への転換に向け、宿泊サービスの高付加価値化と生産性向上に取り組むことが喫緊の課題」と指摘する。
このためJTB旅ホ連では、人財育成を重視し、各種施策を展開する。
■メニュー提供
旅ホ連では、宿泊業従事者のキャリアプランに沿ったメニュー、コンテンツの提供に注力していく。旅館経営人財育成アカデミー、JTB旅連事業のほか、関係機関との連携も強化する。
〈採用期〉人財確保への積極的な取り組み支援(人財に関するソリューションサービスの提供)を多面的に行い、情報の告知を強化する。また、外国人雇用促進へのサポートを充実させる。
〈育成期~成長期〉多くの会員が活用できるプログラムを提供する。宿泊業における階層別に適した研修を実施する(若手社員の自律意識醸成、実務スキルアップ、マネジメント強化、組織活性化、ホスピタリティ向上など)。
〈活躍期〉次世代の経営者・幹部候補の人財育成支援として、経営力強化、JTBとのエンゲージメントに向けたセミナーを企画する。また、提携している大学の経営者向け公開講座への受講料支援も継続する。
■研修
マネジメント、実務スキルアップ、経営基盤強化、専門力向上につながるセミナーを企画、実施する。動画・eラーニングなど、リモートで学べる教育機会も提供する。また、JTBグループの事業戦略と連動したセミナーや宿泊増売につながる現地受け入れ研修、個人宿泊研修などを実施する。
■アカデミー
旅館・ホテルの人財育成を支援する「旅館経営人財育成アカデミー」では、25年度も階層別研修を主に実施する。講師はいずれもパワーパートナー・アンド・トラスト代表取締役の安達太氏が務める。安達氏による研修は、受講した旅ホ連会員、JTB社員のアンケート結果で「たいへん良かった」と「良かった」の合計が100%となっている。
25年度の研修(予定)は次の通り。
◎若手社員研修(目標・主体性の向上)研修メニュー=(1)過去を振り返り自分の強みを把握する(2)コントロールできる領域に集中する(3)積極的思考を身につける(4)ありたい姿を描く(5)責任を体現する(6)ビジョンを言語化する
◎人を動かす幹部を育てる研修(目標・人財マネジメント力の強化)研修メニュー=(1)3大学習法と育成方法(2)リーダーとフォロワーの理想的な関係(3)リーダーとして影響力を発揮するあり方(4)人を動かす動機付けの仕方(5)フィードバックの仕方
◎組織活性化研修(目標・チームビルディング力強化)研修メニュー=(1)チームマネジメントの基礎(2)心理的安全性を高めるために必要なこと(3)相乗効果を発揮するために(4)成果を上げるチームづくり(5)自部署の課題抽出と解決策立案
◎コーチング研修(目標・人財育成力強化)研修メニュー=(1)コーチングとは(2)コーチとしてのあり方(3)コーチングに必要なコミュニケーションスキル(4)問題を多面的に観る力を養う(チームコーチング)
対象者は、「若手社員研修」は、入社1~6年目社員(管理職のオブザーバー参加も可能)。その他の研修は、経営者、次世代経営者、経営幹部、女将、若女将、管理職、現場リーダー。
今後の開催スケジュールは、大阪6月24日(若手社員研修)▽岡山6月25日(同)▽愛媛6月26日(同)▽沖縄7月7日(コーチング研修)▽沖縄7月8日(若手社員研修)▽岩手7月14日(同)▽宮城7月15日(同)▽鹿児島2026年2月9日(コーチング研修)▽福岡26年2月10日(若手社員研修)
テーマ別研修では「組織基盤強化」に向けたテーマを設定し、1泊2日研修を実施する。25年度はサステナブルツーリズム、サービス優秀旅館ホテルから学ぶなどの研修を予定している。
非対面での研修では旅ホ連ネット「やどこむ」で、経営、財務などをWebで学べる動画に、カスタマーハラスメントに関する新たな講座を加えた。また、引き続き300講座以上を24時間受講できるeラーニング「まなびプレミアム」も引き続き展開する。
旅館経営人財育成アカデミーのテーマ別研修。「ガストロノミーツーリズム」をテーマにした奈良県でのセミナー(2025年2月、今西酒蔵の三輪伝承蔵)
旅館経営人財育成アカデミーの階層別研修の様子
■おもてなし検定
日本の宿の接遇に関する業界資格である「日本の宿おもてなし検定」は、宿泊客と応対する旅館スタッフの育成、接遇力向上を目的とする検定で、JTB旅ホ連が積極的に運用している。受験資格に年齢、国籍などの制限はなく、近年では外国人の受験者も増加している。
検定は3段階の設定。3級(基礎)は「基本中の基本のレベル」、2級(応用)は「お客さまのご満足と明確なプラス評価をいただけるレベル」、1級(指導)は「おもてなしの知識・実務能力を発揮し、後輩を指導、育成できるレベル」。3級、2級はウェブ試験。1級は実技、面接試験も行われる。
24年度は、3級の受験者数が2014人、合格者数が1295人(合格率64・3%)。2級の受験者数が687人、合格者数が498人(同72・5%)。1級は会員1人が合格、観光庁を訪問し、秡川直也長官に合格の報告を行った。観光業において「接遇の指導者」と認定された1級合格者は累計で31人。今年度の1級試験は5月に終了している。JTB旅ホ連では会員施設における1級資格の取得を後押しする。
25年度は、3級、2級の試験期間が9月16~30日。申し込み期間は7月1日からで、団体は9月2日締め切り、個人は9月9日締め切り。JTB旅ホ連では会員施設に対して受験料の補助を行っている。
■外部検定
旅ホ連では、日本ホテル教育センター主催の「ホテルビジネス実務検定」「和食検定」の受験を奨励している。会員限定の特典として受験料やテキスト代を補助している。「ホテルビジネス実務検定」は、ホテルの実務知識の体系的な理解度を測る評価基準。「和食検定」は、和食文化の正しい理解と継承、おもてなしレベルの向上を目的とした検定試験となっている。
組織強化ー人手不足対策など支援 会員メリット最大化
組織強化に向けて、会員メリットの最大化につながる活動、情報提供を推進する。
■旅ホ連共済
JTB旅ホ連共済の拡充と認知拡大に取り組む。「安心して働き続けることができる就業環境づくり」を支援し、安定経営に貢献する。JTB旅ホ連共済「ならでは」の有用性、優位性を周知し、25年度は、加入者2万3千人、「充実プラン」(プランB)加入者数3400人、加入率43%を目指す。
■生産性向上・人手不足対策
会員施設の安定経営につながるソリューションの提供、生産性向上と人手不足対策の支援に向けて、次の取り組みを支援する。
・旅ホ連保険、食材プラットフォームなど、JTB旅連事業が提供する事業、サービスの活用
・キャッシュレス決済などのデジタルサービスを手掛けるJTBビジネスイノベーターズ、人材サービスを担うJ&JヒューマンソリューションズなどのJTBグループ各社との連携、タイミー、おてつたびなど、有効性の高い外部のソリューションの紹介と活用促進
・旅ホ連ニュース、メルマガの旅ホ連だよりを通じた人手不足対策=スポットワークの活用、社員の定着化、労働生産性向上対策=DX活用など、会員の課題に対する情報や事例の共有
・自然災害対応、カスタマーハラスメント対策など、危機管理意識の向上につながる情報整備と発信の強化
■会員メリット
会員メリットを実感できる価値と、評価される交流機会の創出に継続的に取り組む。
・若手・中堅社員層への交流機会の創出
・支部間交流事業、コミュニケーション強化施策の支援
・外部のメディア連携による旅ホ連活動のアピールと組織価値向上につながる取り組みの強化