ユネスコ無形文化遺産の登録実現へ「温泉文化大使」に聞く グランディア芳泉 常務取締役・山口高澄氏


山口高澄氏(写真=SNSで260万回再生された福井PR動画の一部)

山口高澄氏(写真=SNSで260万回再生された福井PR動画の一部)

 温泉・旅館関係者や、温泉地を有する都道府県などは、「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産への登録を目指している。「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会は、登録への機運醸成に向けて、各界の有志を「温泉文化大使」に任命している。登録の実現を応援している観光経済新聞は、「温泉文化大使」に任命されている旅館・ホテル経営者、女将らにインタビュー。「あなたが思う『温泉文化』とは」「『温泉文化』継承の課題は」、そして、登録実現に向けた抱負について聞いた。

温泉旅館におもてなし精神 文化継承へ社内変革も必須

 ――まずはあわら温泉のご紹介を。

 明治16年にかんがい用の水を求めて井戸を掘ったところ、塩味の温泉が湧出したことが始まり。明治45年に旧国鉄が開通して以降、温泉街として発展した。現在は74本の源泉を持ち、落ち着いたたたずまいから「関西の奥座敷」と呼ばれている。毎年8月8、9日には「湯かけまつり」が開かれるなど、あわら温泉ならではのイベントも行われている。

 昨年は北陸新幹線の芦原温泉駅が開業したことで温泉地にも注目が集まり、現時点では温泉地もにぎわっている印象だ。入込状況も閑散期と繁忙期の差が少なくなってきている。

 ――山口常務が思う「温泉文化」とは。

 温泉文化とはすなわち、温泉旅館における日本独自のおもてなしの精神だといえる。温泉に浸かって地元の郷土料理をいただき、ゆっくりくつろいでもらう。日本人としては当たり前の感覚になっているが、それこそが一つの「文化」だ。世代や国境を超えることで、より尊く、より重要なものになっていくだろう。

 そのように感じる背景として、インバウンドのお客さまが増えていること、そして宿泊サービスの形が多様化していることが挙げられる。こうした現代にこそ、日本古来変わらないおもてなしの空間として温泉旅館がある。

 どれだけ生産性を高めようとも、日本のおもてなしマインドは世界的にも依然としてレベルが高く、この時代にあえて「おもてなしの心」を大事にすることこそ世界に通用する武器として残していきたい。

 ――インバウンドの宿泊者からの温泉文化の評価はどうか。

 チェックアウトの際、「料理からお風呂、お部屋まですべてが素晴らしい」との声をいただくことが多い。言語の壁はあるが、温泉や大浴場の設え、料理一品一品のテーマ性、われわれのサービス提供の所作など、「これが日本旅館だ」ということを分かってもらえたという実感があった。

 ただ、このサービスの維持をしていくことが大変で、人材教育や賃金アップ、それらを達成した上でしっかり収益が出る体制づくりをしていかなければならない。今こそ「日本の温泉旅館文化の発信」を掲げ、変革を実行していくべき時。それが温泉文化の継承、温泉旅館の発展につながる。

 ――質の高いおもてなしの維持や温泉文化を継承していくための具体的な取り組みは。

 お客さまアンケートを分析し、全社員に共有している。アンケートは商品価値の指標であり、現在設定している単価が間違っていないかを常に意識している。目標単価を維持しながら、質の高い商品を提供できるかが、温泉旅館の経営者の勝負どころだ。

 コロナ禍を経験してからは、ニーズに合わせた選択肢を提供するようにかじを切った。料理や部屋の種類などで多様なプランを用意し、ミスマッチを防いでいる。

 社内体制の整備も注力している。認識のズレが起きないマニュアル作成や組織体系の再構築を実施したほか、評価方法の見直しも行った。これらにより複雑で質の高いサービスを提供できるようにしている。

 限られた人数で全員があらゆる業務をこなせるよう、教育やモチベーション維持にも力を入れている。賃金アップも目指し、「旅館で働く」という魅力を高めている。日本の温泉文化・温泉旅館文化を守り継承していくためには、前提としてお客さま視点・従業員視点の両面で旅館が魅力的な場所になっていかなければならない。

 地域全体で温泉文化を盛り上げていくことも重要だが、まずは「日本一の旅館に」という気概を持って自館を磨き上げていく気持ちが大事だ。

 ――海外へのプロモーションはどのように。

 「温泉旅館は面白い」「温泉旅館を目的地に」をテーマに、インスタグラムなどを活用して若い世代にも訴求している。海外の好みに合わせすぎず、日本の旅館文化をそのまま発信していくことが重要だ。実際、1日10組以上のお客さまから「SNSを見てグランディア芳泉に決めた」という声をいただいている。

 昨今は泊食分離プランの必要性が叫ばれることも多いが、当館は1泊2食プランの利用が多く、ビュッフェやしゃぶしゃぶ、懐石料理などさまざまな料理、さまざまなコンセプトのある部屋、さまざまなタイプの風呂があり、日本の文化を丸ごと体験できる環境を提供している。最終的に旅館や温泉の良さを知ってもらえるよう心がけている。

 ――ユネスコ無形文化遺産への登録実現に向けてどのような活動を。

 SNSなど新しい手法も用いて認知度を高めており、インスタグラムなどの動画で温泉文化の魅力を発信し、旅館に泊まらない人にも署名活動への参加を促している。

 SNSでの署名運動にとても良い感触を得ている。このような新しい手法で署名が集まるよう、今後も努力していきたい。

グランディア芳泉の温泉露天風呂付きスイート「個止吹気亭(ことぶきてい)」
グランディア芳泉の温泉露天風呂付きスイート「個止吹気亭(ことぶきてい)」

【聞き手・水田寛人】

 
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