
迫間優子氏
温泉・旅館関係者や、温泉地を有する都道府県などは、「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産への登録を目指している。「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会は、登録への機運醸成に向けて、各界の有志を「温泉文化大使」に任命している。登録の実現を応援している観光経済新聞は、「温泉文化大使」に任命されている旅館・ホテル経営者、女将らにインタビュー。「あなたが思う『温泉文化』とは」「『温泉文化』継承の課題は」、そして、登録実現に向けた抱負について聞いた。
歴史、風習、人と人との交流 伝統、価値を未来へつなぐ
――迫間さんが考える「温泉文化」とは。
温泉そのものに限らず、地域の歴史や風習、そこで生まれる人と人との交流。これら全てが温泉文化だと思う。
温泉地や旅館は癒やしの場であり、コミュニティ形成の場。お客さま同士、地元の人同士、お客さまと地元の人たちを結ぶ役割を果たしてきた。これらも温泉文化だと思っている。
このような伝統や価値を未来へつなげていきたい。
――地元の温泉文化と、その魅力について。
鳥羽は運び湯の文化があり、当館は榊原の湯を運んでいるが、温泉ソムリエの方に言わせると、「スーパー美肌の湯」。ただの美肌の湯ではない。ペーハー9・6とアルカリ度が高く、角質がよく取れるほか、保湿をすると肌がすごくきれいになる。
――温泉文化を次世代に継承する上で課題は。
一つは、入浴のマナーを伝えること。昔の人が自然にしていたことも、温泉にそれほど親しんでいない人は、それを知らずに入ることがある。
若い人たちでも、温泉好きの人が結構多い。ただ、マナーを知らずに入り、ほかのお客さまに迷惑をかけていることがある。かけ湯をしてから湯船に入るとか、髪の毛が湯船に漬からないようにするなど。当館は大浴場にポスターを掲示している。
――昔は銭湯を利用する一般家庭もあったが、今はほとんどが家風呂だ。
啓蒙活動とともに、入浴マナーについて教育をする人も必要ではないか。
――今はインバウンドが増えている。外国人のお客さんによるトラブルは。
鳥羽はまだ外国人のお客さまがそれほど多くない。大阪や京都などにはとても及ばず、オーバーツーリズムになりたいぐらい(笑い)。大阪や名古屋から近鉄電車一本で来られて足の便は決して悪くないが、空港がないことがネックかもしれない。
インバウンドによるトラブルはそれほどないが、ただマナーを知らずに入ることがたまにある。湯船にシャンプーを入れて泡風呂にされたことがあった(笑い)。
温泉の入り方やマナーについて、注意書きのほか、今の時代はSNSがあるので、それを使った各国の言葉での情報発信も必要ではないか。
海外の人たちは「文化」というものを大切にしている。温泉が単なるリラクゼーション施設ではなく、日本の文化の一部だ、ということも伝えればいいのではないか。
――ユネスコ登録の意義を改めて伺いたい。
世界の人たちに認知をしてもらえる絶好の機会だ。「和食」がその最たる例。和食の料理人が世界の各地で引く手あまたと聞く。
さらに昨年暮れに登録された「伝統的酒造り」。日本のお酒が世界から注目されるようになった。温泉もこれらに続いてほしい。
――温泉はインバウンドを誘致する上で有力なコンテンツといえるか。
もちろん。日本の強みの一つだと思う。お湯に漬かる風習がない国もあるが、日本ならではの文化として、興味を持たれるのではないか。
――温泉文化大使として、既に取り組んでいること、これから取り組みたいことは。
SNSが得意で、それを使った温泉に関する情報発信をしている。当館はTikTokで10万人のフォロワーがいる。さらに活用して、発信を強化したい。
協議会(「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会)からの情報発信も、要望があればうちのSNSで協力したい。温泉文化のマークが入ったTシャツやピンバッジを販売しているが、その宣伝にも協力する(笑い)。
――署名活動は。
当館のフロントに署名用のQRコードを設置している。チェックイン・チェックアウトの際、お客さまにお声がけして、協力してもらっている。QRコードは客室にも置こうと考えている。ポップのようなものを自作しようと思うが、公式のものがあればありがたい。
地元の旅館組合で理事長をしているので、ほかの組合員さんにも協力を仰ぎ、多くの署名を集めたい。
――最後に一言。
温泉文化をわれわれ関係者が守り、育てることが重要だが、一般の方々にもこの温泉文化について、さらに興味を持っていただきたい。そのためにわれわれ大使は努力をする。
署名活動については、目標の100万筆を集められるように、さらに精進したい。
鳥羽ビューホテル花真珠の絶景露天風呂「遊湯」
【聞き手・森田淳】