
佐藤洋詩恵氏
創刊100年に向け、本紙の進むべき道とは何か。長年本紙と深く関わられてきた識者や経営者、これからを担う経営者に、本紙に期待する、果たすべき役割について、提言を頂いた。
双方向の交流できる紙面を切望
紙齢3千号を優に超え、めでたくご創業75周年をお迎えのことを、心から祝しお喜び申し上げます。
昭和100年の節目のご充実の元旦号を拝読し、社を挙げて「観光立国」の実現にまい進し、近年は「観光立国の実現は地方(地域)から」を標榜(ひょうぼう)してこられたことに、ありがたく思いを致しております。
新聞を取り巻く環境が激変する中、紙媒体としての真価を問う強靱(きょうじん)な姿勢を貫いてこられたことの尊く敬意を表します。
顧みれば、亡き江口恒明さまからのお声がけでつづった拙文が、貴社30周年記念論文の優秀賞を頂き、「湯の町かみのやま」での女将の業に戸惑いを覚えていた非力な私に一条の光を与えてくれたのです。あれから45年、卓越した初代女将を仰ぎ見る後継者であった私が、宿の未来を3代目たちに託す日々、平成22年6月29日付の江口さまの手紙が、天からのメッセージのように思えます。
「…日本専門新聞協会(全産業界36種の代表紙約100社で結成)、発行部数は1200万部ですが、新聞経営も多難な時代。宿の経営も同じようです。人間生きているといろんなことがあるものです。今はミーハー社会だから、この国の未来はどうなるか心配ですね。教育そのものが、今の人に”押しつけ”だけでは通用しなくなっています。老若男女、どんな人も、ただ『損』か『得』かで動いている損得社会になってしまっているからでしょう。宿の女将像にしても、『私はこうしてきた。この宿を継ぐのだからこうしなさい』では成り立たないようです。成熟社会の成せることかもしれません。私は過去(歴史・伝統)があって現在があり、それが未来につながる。今の人は過去を知らないので無視しがちになってしまう。女将像も変わってきた訳です。(中略)思いのままを書きましたが、いずれゆっくりとお話しできる機会があると思います…」
2年後の4月8日、主人の祝賀会にご臨席くだされた折、「事業承継を頑張れ」とのお励ましをいただいたのが最後となりました。江口さまの志を引き継ぎ、紙面刷新を図り、経営者の顔の見える旅館ホテル、人が見える全国の観光業界との強いネットワークを生かし、業界の諸課題の提議、解決への指針、経営のヒントを道する貴社の普段の歩みに拍手を送ります。
今後も紙面から、肉声、肉筆が読者の心に伝わり、双方向の交流ができることを、祝意を込め切望いたします。グローバルな時代の超高度情報化社会にあって、どんなに”IT”観光が進んでも、人はあの人に”逢いたい”と旅に出るのですから。
佐藤洋詩恵氏