
酒井社長
2026年度までを策定期間とする中期経営計画で、グループ一体運営の強化を盛り込んでいるKNT―CTホールディングス。グループの中核事業を担う、近畿日本ツーリスト、クラブツーリズム、近畿日本ツーリストブループラネットの社長に、事業構造改革やグループシナジーの最大化に向けた各社の取り組みを聞いた。(本社編集部記者・水田寛人)
顧客接点生かし独自の商品開発を
――まずは、2024年度の振り返りを。
売上高はクラブツーリズム全体で1240億円、前年比130%弱となった。利益ベースで見てもほぼコロナ前に近い形に戻ってきた。その大きな要因の一つに、海外旅行がコロナ前の7割程度まで回復したことがある。欧州やアジア方面を中心にかなり回復しており、高単価の商品でも堅調に推移している。しかしながら、コロナ前と比較すると平均単価が大幅に上昇し、取り扱い人数ベースでは回復が遅れていることは課題だ。
この傾向は国内旅行も同じ。昨年度は8月の南海トラフ地震臨時情報や相次ぐ台風、今年2月の雪害など、自然環境での逆風が大きく影響したものの、国内旅行全体の売上では前年比110%程度で推移。中でもテーマ旅行は前年比115%となり、テーマのある旅の国内旅行は堅調に推移したという印象だ。
――コロナ禍以降推進してきた「発地型」から「着地型」へのシフトは順調に進んでいる?
昨年度もテーマ旅行を中心に、確実に前進した。特に登山や歴史探訪など目的がはっきりしたツアーにおいて着地型比率が高まっている。また、当社では、外国人も日本人も混乗でバスツアーを運営している。大都市圏のお客さまを中心に着地型バス旅行が人気を集め、さらに外国人のお客さまも多く参加されるようになった。昨年9月に多言語版自社サイト「YOKOSO JAPAN TOUR」を公開した効果だとみている。
――国内需要が縮小していくこれからの時代、今後はどのような戦略を描いている?
人口減少により国内需要が縮小していく中で、インバウンド需要拡大がカギになる。これは基本戦略の一つで、今後もインバウンド向け商品の強化は必須だ。
また、シニア層向け商品の多様化も必要だ。65歳以上の人口の割合が増えていくこの状況は、シニア層との結びつきが強い当社にとって大きな商機になる。そこで今後は主要顧客となる「シニア層」の細分化を行っていく。
具体的には、75歳以上の体力面に不安を抱えている層、いわゆる後期高齢者へのアプローチを図り、専用商品を作っていく。
また、今後はお客さまが旅行できる機会を少しでも多く確保してあげることが大事。そうした層への健康の実現のようなことを、旅を通じてお手伝いできればと思う。
――従来の主要顧客層との結びつきを最大限活用していく。
旅行業だけでなく、旅行業で培った顧客との関係を旅行以外の普段の生活でも役に立てる事業を展開している。
その代表が、「生活サポート事業」だ。お客さまの家の掃除や草むしり、保険の相談などをサポートするもので、コロナ禍で始めた事業だが、しっかり結果が出るようになってきた。旅行業以外の事業もこれからさらに強化・拡大していく。
これらは当社への信用があってこそできること。旅行で何十年とお付き合いさせていただいているお客さまとの関係性の近さを旅行以外のビジネスにつなげていく。「旅行業の一本足打法」から脱却することは、引き続き当社の重要な戦略だ。
「講師組織」拡大でテーマ旅行強化
――国内個人旅行の強化、特に「テーマ旅行」の強化も推進している。
従来のいわゆる「物見遊山型」の添乗員付きツアーは、今後は右肩下がりになる一方だ。そこで、添乗員が付かないテーマ型の個人旅行商品の強化を進めていく。今年4月にはその専門組織として「パーソナルデザイン旅行センター」を開設した。
何か明確なテーマやコンテンツが含まれている添乗員が付かない個人旅行商品は造成に手間がかかり、あまり他社が参入していないブルーオーシャンだ。そこで当社独自のオリジナリティを出せたらよいと考えている。
扱うテーマは多岐にわたり、参加するお客さまによって興味・関心を寄せるテーマはさまざま。だからこそマーケティング的な視点が求められるようになる。オリジナリティのある地域のコンテンツは、KCP会の皆さまとの連携によってこそ作り出せる。
われわれがお客さまとの接点を生かし「マーケットイン」の姿勢で生き残っていくためにも、ぜひ会員の皆さまにもご理解・ご協力をいただきたい。
――添乗員も地域コンテンツに詳しい人材が必要になってくる。
テーマ旅行の添乗員は、その分野に精通している「ナビゲーター」のような役割を担う必要があり、そういう人材を増やしていく。現在はそうした社員のナビゲータースタッフが10人ほどいるが、今後100人程度に増えたらさらに面白くなりそうだ。また、テーマ旅行の「講師組織」をもっと大きくする必要がある。
講師とは、山岳ツアーでのガイドや歴史街道を巡るツアーでの歴史家などを指す。こうした講師組織も近年は高齢化が進んでおり、今後は次世代講師の確保が必要になってくる。当社では、社員の間でプロジェクトチームを結成し、社内勉強会を行っている。例えば、世界遺産の勉強会やワークショップが現在動いている。
――新入社員も入社されたが、やはり添乗業務は人気か。
今年度は当社に123人が入社した。従来はツアーの企画職などが人気だったが、今年は高い添乗スキルを身に付けたいと話す新入社員も多く見られた。こだわった旅を提供するリアルエージェントの存在がますます貴重になる中、添乗業務を通じてお客さまを幸せにしたいと強く願う若い社員が増えていることは非常にうれしく感じている。
――2025年度の注力事業に「万博プラスワントリップキャンペーン」がある。開幕後、クラブツーリズムの万博行きツアーの販売状況は。
特に開幕後は非常に売れ行きがよく、やはりいざ開幕すると注目度が高いということがわかる。
当社も「万博プラスワントリップ」の販売を行っているが、「せっかく万博に行くなら周辺観光も」といった需要の掘り起こしも行い、万博の効果が周辺地域へ広がっていくことを期待している。
――今後のKCP会との連携はどのようにお考えを。
KCP会自体が地域創生団体だ。各地域でどのように人を呼び込むかということを考える存在、「大きなDMO」ともいえる。
引き続き、KCP会の皆さまと地域共創の取り組みを進化させていきたいと思っている。また、連合会組織が8連合会になったとしても連携の濃度は濃いままで積極的にかかわっていくつもりだ。
各地の細かいニーズをしっかり拾いながら、地域イベントの開催などを実施し、組織がスリム化したことの弊害が起きないようにしていきたいと考えている。
――会員に向けたメッセージを。
当社にはKCP会の皆さまとともに作った地域イベントやコンテンツが多数存在しているが、思い返せばそのほとんどがお客さまの声から生まれたもの。
お客さまの「あったらいいな」「やってみたい」「見てみたい」といった小さな声を細かく共有、交換し合い、アイデアを磨き上げながら新しいコンテンツを作り上げていきましょう。そんな旅のバリューチェーンで、日本の各地域を盛り上げていきましょう。
酒井博社長