
2026年度までを策定期間とする中期経営計画で、グループ一体運営の強化を盛り込んでいるKNT―CTホールディングス。グループの中核事業を担う、近畿日本ツーリスト、クラブツーリズム、近畿日本ツーリストブループラネットの社長に、事業構造改革やグループシナジーの最大化に向けた各社の取り組みを聞いた。(本社編集部記者・水田寛人)
拠点統合とコスト削減、人材確保も
――まずは、2024年度の振り返りを。
一昨年まで大きな収益を上げてきた新型コロナウイルスのワクチン受託事業が完全になくなったが、旅行業は全般的に回復が顕著だった。特に一般団体は国内・海外ともに好調で、そのほか教育旅行、訪日旅行も回復。この三つは、取り扱い件数が前年を超える結果となった。一方の個人旅行は、前年からほぼ横ばいだった。
当社の場合、現在クラブツーリズムの商品を中心に店頭で販売しているが、パッケージツアーに関しては海外市場から撤退しているということもあり、厳しい状況だった。教育旅行も取り扱い件数は前年を超えてきてはいるが、原価上昇分の吸収が不十分で、利益ベースではかなり苦戦した。
――旅行市場は、インバウンドが特に好調だ。
当社も団体・個人ともに好調だった。
団体に関しては、欧米諸国からインセンティブツアーを多く受注した。スポーツ関係も非常に大きい取り扱いがあり、特に昨年5月に開催された「神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会」と、今年3月に開催された「東京マラソン2025」の二つは大きな取り扱いがあった。
個人に関しては、インバウンド向け宿泊予約サイト「Japan Traveler Online」(JTO)を使い、KCP会の皆さまからお預かりしている客室の販売に注力した。今年になってもその勢いは衰えず、国内個人旅行の落ち込みをカバーするほどの売上になっている。
――昨今の旅行市場をどのように見ているか。
好調のインバウンドに関しては、トランプ政権の関税政策による経済的な影響は不透明だ。旅行業界だけが好景気になることはないと思うので、影響を注視していく必要がある。ただそうした状況下でも、日本は人気の旅先だ。マーケットとしては今後も拡大していくだろう。特に大阪・関西万博でさらに増えるとみている。
海外旅行も2023年から復調傾向にはあるが、コロナ前比では5割程度。今年度中の完全回復は厳しい見込みだ。企業などの視察旅行やインセンティブツアーで海外を目的地にするケースが増えてきているので、そこに期待したい。
国内旅行に関しては、宿泊単価の値上がりがかなり影響している。経済的に余裕のあるシニア層はともかく、ファミリー層など40代以下の動きを今年は注視する必要がある。今の日本の若年層が何にお金を使っているのか断定はできないが、何とか旅行の方に引き寄せられるよう、魅力ある商品開発をしていく必要がある。
――事業構造改革の状況は。
まだ道半ばだが、昨年度はその前段として「伸びる事業は伸ばし、引くべき事業は撤退する」といった臨機応変な対応をとり始めている。
その足掛かりの一つとして、大阪・梅田に新たな個人向け店舗「LINKS UMEDA店」を今年1月に開業した。コロナ後のお客さまの動向を見ていると、来店予約をしてじっくり相談し、旅行申し込みをされるケースが増えている。こうした店舗での成約率が上昇していけば、首都圏や中京圏への進出も今後検討していきたい。
一方、団体向け店舗は、少ない社員数で回している非効率的な店舗などで他店との統合を実施している。バックオフィス業務の効率化によりコスト削減を目指す。
北海道エリアでは、札幌支店の下に旭川、帯広の各店舗を営業所として配置したほか、北東北エリアも盛岡支店を母体として青森、秋田、山形の各営業所を配下とする予定だ。今年度は西日本エリアでの箇所統合も検討している。
――人材確保や人材配置の最適化にも注力している。
若い世代の採用はもちろん、いわゆる経験者採用も重視している。現代は70歳くらいまで働くような時代。シニア人材をどう活用していくかも大きい課題だ。また、中途採用も積極的に取り組んでおり、特にⅠTやAI人材は積極的に採用していきたい。
情報連携で「万博プラスワン」成功へ
――25年度の注力事業は。
9月に「東京2025世界陸上競技選手権大会」(東京2025世界陸上)の取り扱いがあるので、これに向けて選手とスタッフの宿泊・輸送業務をしっかりこなす。同時に、各国の事前合宿などもできる限り取り扱いできるよう、積極的な営業活動を展開している。
そしてやはり一番の目玉は大阪・関西万博。当社の場合、「万博への送客」「万博運営のお手伝い」が二大事業だ。前者では、教育旅行の学生団体6万人分の送客がすでに確定しており、一般団体も引き合いが増えている。後者は、あるパビリオンの運営受託や会場警備員の宿泊手配業務などを受注している。
――万博開幕後、全国的に盛り上がりを見せ始めた。
開幕初日は約12万人が来場したと報道された。当社としても多くのお客さまを送客したいと考えており、目標の4分の1は教育旅行を中心に取り扱いが決まっている。期間を通じて目標を達成したい。「一生に一度は万博へ」の声かけを行い、旅行機運の醸成に努めていく。
――KCP会との共同事業「万博プラスワントリップ」については。
能登半島地震の復興施策と絡め、「万博プラス能登半島」と銘打ったツアーを企画している。和倉温泉に宿泊してもらい、お客さまに震災の状況を聞いていただくほか、被災地の視察も含んでいる。
このほかにも、近鉄特急を使った伊勢志摩へのツアーや、淡路島を含めた瀬戸内への送客など、KCP会と一体となって取り組んでいる。山陰方面などの西日本エリアも、KCP会の委員会活動を通じて情報連携を行い、積極的な送客に努めていく予定だ。
――KCP会は今年度から8連合会体制になった。
8連合会になったとしても協力関係は全く変わらない。統合によって規模が大きくなった連合会では予算も大きくなるので、従来よりも運営がやりやすい組織になると前向きにとらえている。今後も「共生と共創」をテーマに連携強化を図っていきたい。
われわれの一番重要な役割は、お客さまを送り、地域に貢献すること。KCP会と会社だけでなく、地元の観光協会や自治体ともタッグを組み、地域を盛り上げていく。
――KCP会には具体的な目的をもった多様な委員会活動がある。会員との情報交換の状況は。
「未来創造」「インバウンド」「Web」「教育旅行」などの委員会があるが、中でも昨年度は教育旅行委員会の活動が活発だった。全国から会社の担当者とKCP会員の皆さまが集まり、ビジネスマッチングを行う商談会を実施しているが、探求学習素材の詳細な提案を多くいただいた。KCP会の皆さまも商機を見いだしており、いただく提案が実際に成果につながっている。
――会員にメッセージを。
当社の創業から70年間、ここまで事業を継続できたのはKCP会の皆さまのおかげだ。心から感謝を申し上げたい。今後もお客さまを各地域に送客できるよう、逆に地元の情報をご提供いただき、それを旅行素材としてわれわれがかみ砕いてお客さまに提案していけるよう取り組んでいきたい。
瓜生修一社長