
KNT―CTホールディングス(HD)は、今年9月で創立70周年を迎える。訪日外客数が好調な一方で国内人口は減少の一途をたどるなど外部環境の変化が激しくなる中、同社では持続的な成長の実現を目指し「地域共創事業」と「訪日事業」をリンクさせた地方への新たな人流形成を目指している。そのような中、宿泊施設や観光施設、運輸事業者などが加盟するKNT―CTパートナーズ会(KCP会、約3260会員)は今年4月、従来の12連合会から8連合会へと組織改正を実施。運営のスリム化を遂行しつつ、旅行会社とのさらなる連携により地域活性化への体制づくりを進めている。今回は、KCP会の堀泰則会長(ひだホテルプラザ会長)とKNT―CTHDの小山佳延社長の対談を通して、グループが目指す今後の事業方針や両者の連携について話を伺った。(東京・西新宿のKNT-CTHD本社で。司会は本社編集部記者・水田寛人)
2024年度の総括
――まずは、2024年度の振り返りを。
小山 2024年度は、コロナ関連の受託事業が終結したことで、旅行業中心の事業運営の在り方が問われた1年だった。
国内旅行や海外旅行は回復途上にあるが、訪日旅行が大きく伸長した。主力の近畿日本ツーリスト(KNT)・クラブツーリズム(CT)をはじめ、グループ各社の努力と、KCP会さまの協力により、最終利益段階では目標を達成できた。ご協力いただいた関係者の皆さまには改めて感謝したい。
訪日事業が好調だった一方で、国内旅行はいくつかの課題が鮮明になった年だった。
まずは相次いだ自然災害への対応。昨年元日に発生した能登半島地震や、8月の南海トラフ地震臨時情報、西日本を襲った低速の台風など、これまで経験したことのない事態に直面した。
「2024年問題」によるドライバー不足も深刻化した。特に教育旅行での貸し切りバスの手配に苦労し、CTではバス旅行の取り扱いがコロナ前の半分程度となった。今後は代替の交通機関の活用や、行き先の変更、実施時期の分散による集中緩和が必要になる。
一方で、列車や航空機利用の添乗員付きパッケージツアーはコロナ前の水準に復活し、花火や祭りといった夏の催事ツアーは大きく回復した。
MICEも需要が戻りつつある。国内市場だけでなく、特にスポーツビジネスの分野では海外・訪日ともに好調だった。海外旅行ではパリ五輪、訪日旅行では東京マラソンといった大型イベントの需要取り込みに注力し、大きな成果をあげることができた。
今後も事業運営の一層の効率化を継続するとともに、本物志向で他社がまねできない商品・サービスづくりを行い、付加価値の向上にグループ全体で取り組んでいきたい。
小山佳延社長
堀 24年度は、8月の南海トラフ地震に関する臨時情報、能登半島地震の被災地を襲った9月の集中豪雨など、自然災害に向き合う1年だった。被災地においては引き続き早期の復興を願うばかりだ。
小山社長もおっしゃったように、全体的に回復を実感した1年だった。国内旅行は個人旅行がいまだ回復途上にあるが、KNTの教育旅行やMICEなどは堅調に推移。訪日旅行もKNTが扱う商品の回復が顕著で、インバウンド需要に支えられた1年だった。
KCP会の活動としては、本部委員会活動はもちろんのこと、情報連絡委員会活動における地域コンテンツ開発の取り組みを本格的に始動。CTに中心となってもらい、今年度も各地域での新しい魅力開発をKCP会の情報連絡委員とともに進めている。
事業活動としては、能登半島地震被災地への応援として、10月に全国交流事業を急きょ福井県のあわら温泉で開催した。想定以上の参加をいただき、大盛況のうちに終了した。
2月には、第2回全国教育旅行担当者商談会を滋賀県大津で開催。宿泊施設だけではなく、観光・運輸施設の会員からも多数参加いただいた。
「とびだせ いざ!にっぽん旅キャンペーン」については、4月から9月にかけて九州・沖縄、10月から3月にかけて北海道で実施した。個人旅行だけでなく、一般団体、教育旅行、MICE、スポーツ事業にも参画していただき、グループ全体で取り組むことができた。九州と北海道では目標を達成できた。
堀泰則会長
市場の変化への対応
――昨今の旅行市場をどのように見ているか。
小山 世界経済に目を向けると、米国のトランプ政権の関税政策は金融市場を中心に動揺が広がっているなど、先行きが不透明となっていることが懸念材料だ。今後も実態経済や消費活動にどのような影響を及ぼしていくのか動向を注視していく必要がある。
国内市場では、人口減少が本格的に加速しており、今後は日本人を対象とした市場規模の縮小は避けられない。お客さまのニーズや旅行スタイルが多様化していることにも注意が必要だ。
今までわれわれが展開してきた日本人向けの国内旅行や海外旅行といったビジネス領域はますます収縮していき、「変化対応型企業」にならなければ生き残れない時代がやってくる。成熟市場の中で顧客のニーズや市場の変化を的確に捉え、当社ならではの付加価値を顧客に提供できるビジネスモデルへの転換を推し進める必要がある。
そこでまず必須になるのが、既存事業の高付加価値化だ。昨今の物価高騰などにより、旅行代金を上げざるを得ない状況が続いている。今後もしっかりとお客さまに選んでもらえるよう、価格に左右されない高付加価値な旅行商品を作っていかなければならない。
それと並行して、訪日事業の強化も必要だ。海外から日本への「送り手」としての機能を強化し、実績の拡大を図っていく。中期経営計画にも明記しているが、「訪日事業」と「地域共創事業」を掛け合わせた取り組みを展開する。海外のネットワークの再構築により「海外から日本へ」という流れを作り、国内各地域と連携した送客・受け入れ態勢を目指す。私たちが旅行業で培ってきたノウハウをいかに地域で生かせるかが大事になる。
――訪日客を国内の各地域に送客するため、すでにさまざまな事業に取り組まれている。
小山 地域の「DMC」(Destination Management Company)になることを掲げ、さまざまな面で試行錯誤している。DMCとはすなわち、「地域に必要とされる会社」だ。単にお客さまを送客するだけでなく、地元の観光事業者や1次産業の方々とウィンウィンになるような存在になることが理想だ。当社が「未来創造事業」として取り組んでいる新規事業の中にも、日本米の魅力を海外に向けて発信する「コメイノベーション事業」や、全国各地のワイナリーと連携して、グラス1杯サイズのワイン販売の「ワインプラットフォーム事業」を展開している。成果が出るのには時間もかかるが、各地の1次産業と連携して地域活性化にも寄与したいと考えている。
個人旅行の一体化も重要な戦略だ。KNTとCTの強みを融合し、OTAとは異なる価値を提供する。一例を申し上げると、CT会員700万人とKNT会員300万人を合わせた1千万人の顧客基盤を生かしながら、既存の添乗員付きツアーに加え、2名催行ツアーの拡充や宿泊単品への挑戦などで取り扱い領域を広げていく。
進む事業構造改革
――訪日客の受け入れやテーマ旅行の開発にはより会社と地域との連携が重要になる。KCP会は今年度から8連合会体制になったが。
堀 連合会組織の改正は、KNT―CTHDが取り組んでいる事業構造改革に合わせて行った。組織のスリム化により、事務作業の軽減やコンプライアンスの順守に取り組み、宿泊券・観光券・船車券増売といった本来の営業活動に注力できる環境を整えている。
小山社長がおっしゃったように、各地での地域共創をどうしていくかということは大きなテーマだ。戦略的な取り組みをエリアごとに実行していくことに変わりはなく、8連合会になっても事業内容に大きな変更はない。引き続き会社と一緒に、地域を盛り上げるための戦略をともに作っていく。
――会社の方ではどのような事業構造改革を。
小山 大幅に店舗を縮小し、店頭販売だけでも利益が出るような体制を構築した。それと同時に新店開業も行い、今年1月には大阪府内4店目となる「LINKS UMEDA店」を開業。コロナ禍を経て店舗では来店予約制が浸透し、リアルで旅の相談ができることを価値に感じているお客さまは今でも多く、かなり多くの予約をいただいている。
リアルエージェントとして、OTAとは違うコミュニケーションを取りながら販売をしていくということが重要だ。店舗は削減したが、質の高いサービスをしっかり維持しながら「本当に価値のある店舗」を作っていきたい。
事業構造改革の一環で、グループ内の組織体制も大幅な変更を進めている。中でも「働き方改革」は今後の経営の中では非常に重要。よく「人的資本経営」という言葉が聞かれるようになったが、当社もワークライフバランスや女性社員の活躍など、働きやすい環境を作っているところだ。
今年度の新卒採用では、グループ全体で280人を採用した。志望動機として「グローバルで活躍したい」「地域創生に携わりたい」など明確な目的を持つ新入社員が大変多く、地域共創事業は特に注目されている分野だ。当社で経験を積み、知識やスキルを地域創生の分野で発揮できるようなキャリア形成を志向する社員も増えている。
そこで今回から、訪日事業と地域共創事業で「目的採用」を導入した。非常に意識の高い学生から多くの応募があった。当グループでは、KNTの地域共創事業に携わり、地域のニーズを理解した上で、CTで国内旅行商品の企画をするといったキャリアの描き方もできる。グループ内でさまざまな経験を積み、地域創生に貢献する―こうした当社の方針に共感する新入社員が増えているのは喜ばしい限りだ。
――地域共創は今後も重要なビジネス領域だ。KCP会の会員からはどのような要望が届いているか。
堀 各地域への誘客はもちろん、どうやってお客さまを呼び込んでいただけるかが重要だ。その手段として、個人旅行の活性化やMICE、修学旅行などの団体旅行、そしてCTが得意とするテーマ旅行など、地域への送客につながる取り組みを会員は期待している。
特にKNTの教育旅行分野では「2024年問題」に加え、食物アレルギーへの対応といった課題もあり、担当者や施設の負担軽減にも取り組む必要がある。
教育旅行の需要分散化も喫緊の課題だ。現在、バスのドライバーや労働力不足に対応するため、学校の方にもご理解を求めているところだ。もちろん需要の平準化はわれわれだけで何とかできる世界ではないが、コロナ禍にはある程度実現できた実績もある。今後もこうした動きが加速していくとありがたい。
また、今後は宿泊業や運輸業、観光施設においても多文化共生社会を目指し、外国人材とともに事業展開を行っていくことが求められる。人材紹介やビジネスマッチングの場を活用するなど、会社と地域で一体となって取り組んでいきたい。特に外国人材の派遣の分野では、KNT―CTHDグループの皆さまに協力していただいており、会員も非常に喜んでいる。
対談の様子
会社と地域の未来
――25年度の注力事業は。
小山 やはり大阪・関西万博は今年の大きな目玉。夏には「JUNGLIA OKINAWA」(ジャングリア沖縄)も開業する。
万博については現在、KNTの団体旅行とCTの添乗員付きの募集型企画旅行が先行しており、予約も増えてきている。当初は情報が少なく盛り上がりに欠けている印象もあったが、開幕後は注目が集まっており、これからグループ全体で万博への送客をより一層強化していく。
さらに万博に合わせて周辺の各地域を周遊してもらう施策「万博プラスワントリップキャンペーン」も動き出している。インバウンドの地方誘客は観光庁が推進しているので、われわれもそれに向けてしっかりと取り組んでいく。
ジャングリア沖縄については、親会社の近鉄グループホールディングスが出資をしているので、われわれもグループ企業として送客に取り組んでいく。特に教育旅行は先行して動いている。今後も非常に重要なデスティネーションになるので、こちらも引き続き送客に努めていきたい。
堀 万博プラスワントリップキャンペーンは、周辺地域で「もう1泊」滞在していただくという全国キャンペーンだ。KNT―CTグループがKCP会と一緒になって取り組んでいる。今年は会社が創業70周年という記念すべき年。しっかりと成果を上げられるようにしていきたい。会社が掲げている「未来志向と本物志向」を体現できるよう、万博を通じて旅の楽しさをもう一度しっかり伝えていく必要がある。
KCP会では、将来に向けて本部委員会活動の体制変更も行う。これまで本部委員会の中にあった「未来創造委員会」を「全国地域共創委員会」に改正。全国の情報連絡委員長代表が主体となり、会社とともに未来志向、そして地域創生を目指していくための組織として立ち上げる。この取り組みの趣旨が全国各地の連合会を通して会員に浸透するよう、活動内容を共有していく。
KCP会は全国各支部に「情報連絡委員会」を持っていることが一番の強みだ。これまでも各地域が持つ固有のコンテンツやテーマを会社と共有し、旅行商品に仕上げてもらってきた。地域の良さをしっかりと共有しながら新しい魅力を発信していきたい。
――KCP会と会社との今後の連携についてはどのようにお考えを。
小山 日本の社会構造が大きく変わるのに備え、当社もKCP会さまとともによりいっそう強く連携していく必要がある。特に重要なのは旅の視点を従来の「発地」から「着地」に変えてみること。そうすることで、インバウンド需要を獲得できる可能性が大いにある。
そのためには、われわれが地域の視点を持つ必要があり、それには「地域の顔」であるKCP会の皆さまの協力が不可欠だ。当社が目指すDMCというのは、日本の各地域に訪れるお客さまをしっかりお迎えする役割を担う立場。例えばCTが企画するイベントを定期的に実施したり、着地型のツアーを作ったり、日本人だけでなくインバウンドの方々もしっかりお迎えできるような態勢を会員の皆さまとともに整える必要がある。
――会社とKCP会との間で、さらなる交流の活発化が求められる。
小山 各地の魅力を理解し、インバウンドも含めて送客につなげていくには、会社の地域共創担当者が大都市圏にとどまっていてはいけないのかもしれない。地域に引っ越して地元に貢献するくらいになっていかないと、本当の意味で「地域共創に取り組む会社」とはいえない。「どこで働くか」も含めた働き方改革を進めていかなければならない。「東京の本社には管理部門だけ置く」ということも将来的にあり得るだろう。
現場の人材が地域の人々と一緒に暮らして、初めて本当の意味の地域の良さを発信できる。そこに住み、観光事業者や1次産業の生産者と交流することで新しいものが生まれてくる。会社としては、今後そういう方向に持っていきたい。
堀 現在は、特にCTの皆さまにお客さまを呼び込んでいただくための企画でご協力いただいている。それらの手法をどのように地域の皆さんと一体となって作っていくか、そしてそれらをどのように表現していくか。特に「表現の仕方」は、われわれKCP会だけでなく、会社からも積極的なご意見をいただきたい。
小山社長からもあった通り、インバウンドも今後は重要な市場になる。海外のお客さまがなぜその土地を選ぶのか、選ばれる土地になるためには何をしなくてはいけないのか。そうした部分も会社と一緒になって考えていきたいし、会社にはそういう面で旗振り役となっていただくことを期待している。
小山 そのためには、会社は地域と一体となって「地域活性化をできる人材」を輩出していくことが今後大事になっていくだろう。大都市圏以外の人口減少は本当に深刻だ。そうした地域では、農業や漁業といった1次産業ともわれわれ旅行会社が連携し、自治体も巻き込んだ地域活性化のモデルを地道に作っていく必要がある。
ここで重要なのは「事業の継続性」だ。最近は国や自治体の公示案件が増えているが、補助金を一度だけ活用して終わりではなく、事業を自走化させるための仕組みづくりをしていかなければならない。
堀 観光は裾野が広いため、もたらす経済波及効果は非常に大きい。宿泊する以外にも、その地域のさまざまな産物を消費しながら観光は成り立っている。地域を活性化させるという意味では、まさに観光は地域を、国を救う産業といえる。
小山 そう考えると、テーマ旅行は今後もっと伸ばせる分野だ。これまでの周遊型旅行を好んだシニア層と違い、次世代のお客さまは旅の目的や趣味・嗜好をはっきり持っている方が多い。すでにテーマ型の旅行商品の売り上げはコロナ前を上回っており、これは当社の強みでもある。今後もグループ各社の事業をうまく掛け合わせて地域の中に積極的に入っていくことに注力したい。
和やかな雰囲気で地域共創の在り方について議論された
創業100周年に向けて
――最後に、会員に向けてメッセージを。
小山 当社は今年9月で創立70周年を迎える。これまでの長い歴史の中で、宿泊・観光業界の皆さまとのお付き合いは時代の流れとともに変わってきたと思うが、現代はこれまでとまったく異なる環境になっている。インバウンドを中心に日本国内をどのように盛り上げるかを考える必要がある昨今の状況において、私たちがその役割を担うことで新たな関係構築ができると思う。
インバウンドのお客さまをどのように日本にお迎えするのかは、まさしくわれわれが培ってきたことを具現化できるチャンスだ。地域共創事業をしていくには、全国のKCP会の会員の皆さまの力が必要。今後も新たな組織体制となったKCP会の皆さまとウィンウィンの関係を築いていくために、引き続きご協力をお願いしたい。
堀 この70年間、いろいろな変化があり、KCP会も会社とともに歩んできた。「旅の創造」を目指す中で、会社のお力添えがあり日本の観光や旅の文化が発展してきたと実感している。
今後は、地域共創と未来志向、そしてその中にしっかりとした本物志向を目指していく。そのためには、会社と「フェイスtoフェイス」で向き合い、旅行の良さをお客さまと共有することが大事だ。着型地域型の旅行をどうやって会社と一体で作っていくかも重要な課題。グループ一丸となって取り組んでいきましょう。
グループの持続的発展に向け、固い握手を交わす両氏