
東武トップツアーズが2015年4月に設立し、協定旅館ホテル連盟(旅ホ連)と運輸観光施設連盟(運観連)が同年3月に誕生。今年、10年の節目の年をそれぞれ迎えた。次の15年、20年に向けてどう連携を強化していくか。同社の百木田康二社長と金谷譲児旅ホ連会長、小野寺仁運観連会長の3氏に、10年間の回顧や相互連携の在り方などについて語ってもらった。(東京の同社本社で)
東武トップツアーズの公式キャラクター「ツアーモンスター」を囲んで記念撮影
10年間の振り返り
――(司会=本社編集長・森田淳)10年間の振り返りと、印象に残っていることは。
百木田 10年前の2015年4月1日、東武トラベルとトップツアーが合併し、東武トップツアーズが誕生した。両社とも長い歴史を持つ会社だっただけに、この10年間はあっという間だったというのが正直な感想だ。前社長の坂巻伸昭氏は「完全統合には5年ほどかかるだろう」とみていたが、おおむねその通りに進んだと思う。両連盟の各支部会長をはじめとする役員の中には非常に長く務められている方が多く、旧東武トラベル・旧トップツアー双方を気にかけてくださった方々ばかりだ。
設立直後に両連盟と取り組んだ「インバウンド誘致商談会」では、インバウンドという言葉が今ほど注目されていなかった当時、皆でその可能性に目を向け、タイや台湾を訪問した。そういう意味では時代に先駆けた、先駆的な試みだったと思っている。
コロナ禍に入ってからはFace to Faceの活動ができなくなった。コロナ禍が明け、リアルなお付き合いを戻すことはわれわれにとって最大の課題であり、特に印象に残っている出来事だ。
22年には、両連盟と「メモリアル研修会 in 北海道」を実施した。「まだ早いのではないか」という声もあったが、両連盟のこれまでの活動を振り返り、懇親を深める場として開催に踏み切った。会員の多くが口にしていたのは、「やはりリアルで語り合うことの重要性」。北海道を皮切りに、仙台や沖縄でもリアル開催を続けてこられたが、そうした転機を両連盟の皆さんと共有できたことは、非常に大きかったと思う。
また、コロナ禍で若い社員の業務経験・知識が不足していたが、会員施設とのつながりを通じて、実際の仕事に役立つ知識を学ぶことができたのも印象的だ。コロナ前、コロナ禍、その後と、事業の在り方が変化しながらも非常に有意義な10年間だったと思う。
金谷 合併後の最初の4、5年は「異なる文化をどう融合させるか」が最大のテーマだった。会社の経営理念「Warm Heart~ありがとうの連鎖を~」を、旧東武・旧トップ双方の旅ホ連にしっかりと根付かせるため、まず「情報連絡会」を立ち上げ、相互に情報交換する体制を築いた。より具体的な取り組みとして23年度に立ち上げたのが各支部からの事業提案(プレゼンテーション)を受けて順位を決め、本部が助成を行う「強者(ツアモン)事業」だ。本部が支部を応援するという新しい発想から生まれた取り組みで、今年度を含めてこれまでに3回実施してきた。
現在も継続している「若手経営者と会社幹部の懇話会」には、実は旧トップツアー旅ホ連時代に若手経営者側として初回に参加していた。経営層と直接意見を交わせる機会は他にはなかなかない、貴重な事業だ。
小野寺 私は初代会長・中野吉貫氏の後を継ぎ、3期目を迎えた。就任時期がちょうどコロナ禍と重なり、各支部総会で直接あいさつできる機会が限られてしまったことは心苦しく感じていたが、各地で会員の皆さまにお会いする中で、運観連が全国の会員に支えられていることを改めて実感した。
最初の5年は中野会長とともに運観連の基礎を築き、後半の5年はコロナからの復活と新たな課題への対応、新事業への挑戦も視野に入れた時期だった。とりわけ、初代中野会長や金谷会長らによって築かれた両連盟の組織基盤が、現在の活動を支える大きな土台となっていることを強く感じている。
国内旅行市場について
――国内市場について。
百木田 昨年度の実績でいうと、特に一般団体が伸長した。国内旅行の取扱額は前年比で約5%増、団体旅行は約10%増。一方で、個人旅行の企画商品は約16%減となった。法人の周年旅行や報奨旅行は完全に回復したとみているが、パッケージ旅行が以前のように簡単には売れない状況が、ここ数年続いている。
海外旅行はいまだ遅れており、国内旅行が主導しているのが現状だ。感染症対策事業は縮小され、それに代わる柱を求めて努力を続けてきたが、現状まだその規模には達していない。ただし、バスの仕入れ代金や宿泊単価の上昇が続いており、それらはおのずと販売価格に反映されるため、取扱高は増加すると思う。
一方で、人数の大きな伸びは見込めないと感じている。特に団体を受け入れる施設では、人手不足が深刻な問題となっており、これは業界全体の課題だ。労働時間規制により施設は休業日を設ける必要があり、さらに大規模団体のバンケット(宴会)を受け入れるのが難しくなってきている。
個人旅行では、OTAの利用が今後も続くと予想される。だからこそ、われわれリアルエージェントがその存在感を示し、他のサービスとの差別化を図るかが重要だ。特に、OTAでは提供できない複合商品や付加価値を加えることが求められている。ウェブ販売では、宿泊とJRを組み合わせた「スゴ得プラン」などが好調だが、市場規模を拡大していくためには、16%の落ち込みをどう補うかが大きな課題だ。
金谷 現在は地域差が大きく、オーバーツーリズムが課題となっている地域がある一方で、まったく外国人観光客が来ていない地域もある。今後は訪問先の分散を図る必要があり、これは旅行会社だけでなく業界全体で取り組むべき課題だと捉えている。
宿泊施設では、業務の効率化が強く求められている。人手不足への対応として、採用の工夫や制度の見直しも不可欠だ。実際、地方の旅館・ホテルでは、客室に空きがあっても人手が足りず稼働できないケースも見受けられる。こうした状況に対し、外国人の雇用やAIの活用といった選択肢も含め、知恵を出し合いながら解決策を見いださなければ、需要と供給のマッチングは困難だ。
小野寺 観光施設でも受け入れ体制に課題がある。業態を変更したり、団体の受け入れを取りやめたりした施設もある。バス事業に関しては、ドライバー不足の影響で受け入れが難しくなるなど、さまざまな制限が存在しており、全ての需要を取り込みきれていない施設も出てきているのが実情だ。
――大阪・関西万博が4月に開幕した。
百木田 開催期間が半年間と限られているが、成功裏に終わらせたい。教育旅行の活用については一定の成果が出ているのは間違いないが、一般企業の動きも活発化しており、周年行事や報奨旅行の一環として万博を生かそうという動きもみられる。
弊社では阪急交通社と共同で万博会場までのパーク&ライド運行や交通管制関連の業務を担っているほか、教育旅行全般のハンドリングにも関わらせていただいている。これらが万博の成功の一助になればと思っているし、この先続くビッグイベントへの足掛かりにもなればと考えている。
和やかな雰囲気の中で意見を交わす3氏
25年度の事業方針
――会社の25年度事業について。
百木田 現在、私たちを取り巻く環境は急速に変化しており、旅行業界も大きな転換期を迎えている。それに対応するため、1月に組織改正を行い、営業統括本部内に「地域創生・ソーシャルデザイン推進部」「DX・Web3.0推進室」「インバウンド事業推進部」などの部門を新たに設置した。創業当時からの旅行業をなりわいとした姿勢は変わらないが、一方で、旅行業以外の業務や災害対応にも取り組む必要があると感じている。特に、南海トラフ地震の被害が指摘される中、観光業として、何ができるかを考えているところだ。
例えば当社では、複数の自治体と災害時の宿泊提供や輸送手段の確保等への支援を目的とした協定を締結している。このような対応には業界内での連携が不可欠で、一社単独では成り立たない。そのため、有事の際には関係各所と協力し、迅速な支援ができる体制を整えることが重要だと考えている。
インバウンドについては、リアルエージェントとしてインバウンド需要の恩恵を被っているかというと、あまり多くはないのが現実だ。個人で動く旅行需要にどう対応していくかが非常に大きな課題で、今後は首都圏や京都だけでなく、地方にも観光客を誘導する方法を考えていく必要がある。こういったことが「インバウンド事業推進部」を立ち上げた背景に絡んでいる。
今年度は新規事業というより、社内外で温められてきたアイデアを実現に向けて形にする取り組みを本格化させる。その一環として、近未来対応の事業創造を担う「未来共創ラボ」を新たに立ち上げた。社員のアイデアをもとに、他企業や業界団体と協力しながら競争力のある事業を育てていく。
当社は全国47都道府県に事業所を持つのが強みだが、どの地域でも人手不足が深刻な問題となっており、マンパワーを最大限に生かすための組織づくりが求められている。今回の組織改正は、その点を意識したものだ。
――両連盟の25年度事業の活動方針は。
金谷 これまでと大きくは変わらないが、会員の声を反映しながら会社と寄り添い、会員であることのメリットを生み出すことが基本方針だ。また会社と連盟の情報共有を強化し、Win―Winの関係をさらに深め、リアルにこだわった事業展開を進めていく。第2章を切り開くという意味で、「旅ホ連2.0」として次のステージに向かっていきたい。
具体的な事業としては、4月に実施したメモリアル in HAWAII、5月の強者(ツアモン)事業に続き、秋の「若手経営者と会社幹部の懇話会」などを両連盟で予定している。特に強者事業は、会員の皆さんに次の一手となるアイデアを提案してもらい、アイデアを形にできるよう、運観連と協働しながら進めてきた。
小野寺 今までの運観連の事業をしっかりと継承しつつ、「運観連2.0」に向けた新たなチャレンジの基礎を作る1年にしたい。
東武トップツアーズが1月に発足した新たな部門の領域を含めて、われわれも一緒に歩調を合わせながら運観連らしい活動を模索していかなければならないと感じている。先日、未来共創ラボの社員からレクチャーを受け、非常に興味深く話を聞かせていただいた。こういった機会を運観連の会員にも提供しながら、各支部と協調していける体制を作っていきたい。
百木田 これからの会社と両連盟の活動のキーは「会員のためになる」ということだ。会社側はお客さまを送客し、会員の皆さんは各施設で受け入れてもらうビジネスパートナーの関係にあるが、それだけではなく、会員のためになる活動で何を示せるかが非常に重要だと思う。
今は若い社員が増えてきているので、会員の皆さんの顔を知らないこともある。今後はお互いの接点を最大限増やし、会社のスローガン「誇れる仕事を」を実感できるような活動方針にしていきたい。
相互連携の在り方
――相互連携について、どのような形が望ましいか。
百木田 間違いなく「Win―Winの関係」だ。われわれは観光業の仕事に誇りを持って日々の業務に従事しているが、人手不足が常態化しているということは、結局他の業界に逃げられてしまっているのが現実だ。「旅行会社で働いている」「旅館・ホテルで働いている」「運輸機関・土産施設で働いている」などと自信を持って言えて、外部に納得感を与えられる業界にしていく。それは業界全体の底上げにもつながり、優秀な人材を集める力にもなるので、これからも会社と両連盟がタッグを組み、国の基幹産業として活動していきたい。単なる数字の話にとどまらず、業界全体の高揚感を醸し出すような連盟との関係が理想だ。
金谷 宿泊増売が会員にとって最も大きなメリットだが、それだけでなく、情報や知恵、ヒントなどを享受するプラットフォームとしても活用しながら、両連盟の会員で良かったと思ってもらえるような関係を築いていきたい。
旅ホ連の会員からは、「東武トップツアーズはぶっちゃけた話がしやすい」という声を聞く。これは本音が出ている証拠であり、その土壌は両連盟にしっかりと築かれていると感じている。今後の課題は、それをどう具現化していくかであり、この土壌をいかに生かすかが次のステージだ。
小野寺 各支部や地域で、東武トップツアーズの社員と関係者との接点づくりは必要だと感じている。特に若い世代との交流を積極的に進めていきたい。良い意味でフランクな関係性を、われわれがしっかりと引き継いでいくことが大切だと考えている。若い世代にも、会社と会員が近しい関係で共に取り組んでいくという姿勢を継承していく必要がある。また、これまで行ってきた支部間の商談会に限らず、今回の強者(ツアモン)事業にエントリーされたさまざまな企画を、われわれだけでなく若手社員とも同じ方向性を持って商品化し、より深掘りした取り組みへと発展させていきたい。
――互いへの要望は。
百木田 当社は「人」が全て。人そのものを信用していただき、そして提案内容と共にお客さまに買っていただいている感覚だ。人を育てていただくためには、本人の向上心も必要だが、普段自分自身が気付かないことに気付かせてくれるのが、連盟の皆さんだと感じている。
一人でも多くの方と接点を持たせていただけることに感謝しているし、それはこれからも変わらないと思っている。ただ、仕事のボリュームを増やしていくには、自分自身がもっと知識を増やしていかなければならない。それは本からではなく、人から学ぶものだと思っているし、そういう意味でも、両連盟には最大限の支援をお願いしたい。それらが社員一人一人の体験が送客という形で「量」となって返ってくると思っている。もちろん、基本的なことは社内でも教育しているが、施設の皆さまから直接学べることは非常に大きい。
金谷 われわれは「何をしてもらえるか」ではなく、「何ができるか」を提案していかなければならない。ただ提案する中でも、それが具現化されて何かしら未来への新しいきっかけになることが大切だ。「これならいける」と感じられるものを、一緒に形にしていき、転がしながら前に進化させていく。そういった未来を一緒に作っていきたい。
小野寺 おかげさまで、会社と両連盟間で良好な関係が構築できていることに大変感謝している。そうは言っても、一定の緊張感を保ちながら、引き続き旅行のパートナーとしてご指導いただきたい。また、会社側の新事業についても、両連盟としっかり協業できるよう、今後も連携を強化していきたい。
――次の15年、20年に向けた意気込みを。
百木田 両連盟との関係は未来永劫(えいごう)、残していきたい。そのためには、お互いに目的があって、それが達成できるからこそ、この場にいるということを示していかなければならない。金谷会長がおっしゃったように、ただ求めるだけではなく、双方から提案し合うことが重要だ。事業そのものや、そこから発生する商品、仕組みなど―例えば省力化の方法や今後の事業展望、種になるようなアイデアでも良い。そのような提案を広めていき、実行性のある両連盟との関係を築いていきたい。
金谷 私は5期10年会長を務め、6期目に入ったが、今期で観光業の何か次の一手を作れるような取り組みを行っていきたい。一つでも実現できれば、それを糧に15年、20年と業界を盛り上げていくことができるし、両連盟も新しい形で進化し、時代とともに発展できると確信している。
小野寺 私と金谷会長は、会員の中で先輩方と若手の間に位置する立場だ。運観連では、先輩方が築いてきたものをしっかりと継承しつつ、次世代が時代に合ったものを柔軟な発想で変革していく新たなチャレンジをしていく節目に差し掛かっていると感じている。三位一体で変革を進める、重要な時期だ。
東武トップツアーズ 社長 百木田康二氏
東武トップツアーズ旅ホ連 会長 金谷譲児氏
東武トップツアーズ運観連 会長 小野寺仁氏