
ある小規模旅館でのことです。このお宿はスタッフの人数が少ないので、現場でのコミュニケーションは、すべて口頭でのやり取りで済ませていました。この方法でそつなくこなせていたのですが、ある時、予約担当者が宿泊者の予約日を間違えて台帳へ記入してしまい、当日現場が大混乱になってしまいました。
そのことを猛反省した経営者は、翌日スタッフ全員を集め、毎朝チェックアウト後に朝礼を始めることに決めました。そこでは本日の入り込み、到着時刻、アクセス方法、アレルギー対応等、必要と思われることを女将が全員に発表し、当日の確認を行うことでスタートしました。
それから数カ月後、朝礼の欠席者が出始めてきました。理由は現場の仕事が忙しいから。さらに有給休暇取得によるシフトの複雑化で出席者が変動し、欠席者への連絡が不十分になってきました。朝礼はマンネリ化し、入り込み表で確認できる内容の報告ばかりとなり、緊張感の欠如からミスが続出しました。
お宿は規模の大小にかかわらず、複数の仕事が同時進行し、業務をリレーでつないでいきます。お客さまは毎日変わり、その要求事項も個別具体的に異なります。
このお宿では朝礼の目的は、業務ミスを防ぎ、スタッフの円滑な業務遂行を図ることにより、顧客への迷惑を減らし、スタッフのストレス軽減を目指すことでした。
確かに大きな失敗を経験し、もうこんなミスはしないでおこうと、翌日朝礼を始めた段階では、全員その意識は共有していました。しかし月日が流れ、その目的意識は完全に薄れてしまい、朝礼の参加そのものが面倒くさくなってしまったのです。当然朝礼の流れは儀式化し、情報共有も希薄になってきました。その雰囲気は経営者も含め、全員が認識していましたが、大きなミスが発生していないこともあり、そのまま何となく継続していたのです。いざミスが発生すると、特定のスタッフへの非難や感情的な叱責に終始しました。
お宿の業務は属人的になりがちです。それは仕事を任された人が何らかの理由で欠けた時、総崩れを起こす危険性をはらんでいます。このような悪い流れを感じた時、どうすればよいのでしょうか。そのまま放っておくと、悪い予感が的中してしまいます。
そこでまず、目的を明確にするため文書化してスタッフと共有します。紙に書いて事務所に張り出してもいいですし、共有のファイルを作ってもよいでしょう。いずれにしても毎日復唱できる体制を作ります。そして朝礼という手段を選んだのですから、その段取りを確立します。そしてとても大事なことがあります。その方法で昨日1日、目的が達成できたかどうかを振り返る場面を持ちましょう。導入した手段はあくまでも仮説に基づくものであり、この方法で目的達成ができるという保証はありません。だから毎日現場での検証と改善を繰り返すのです。
仕組みと決まりを作ったらそれで安心してしまいますよね。しかも何か不具合が発生した時にも、その仕組みと決まりを改善しないまま続けていこうとします。そこで目的達成のための手段を検証により、臨機応変にアレンジしていく行動力が求められるのです。
脱属人的な手法とは、誰でも実践できること、そして誰でも再現できることです。このチェックポイントをクリアすることを念頭に置き、現場を直視しながら手作りしていきましょう。しかも何回もトライアンドエラーを繰り返す覚悟をもってです。ここがまさに業務マネジメントの差が出る、大きなポイントです。
失敗の法則その50
朝礼や定例会議の場がマンネリ化している。
その結果、本来の目的が達成されない。
だから、目的を明確化し、手段は常に検証しバージョンアップさせよう。
https://www.ryokan-clinic.com/
(観光経済新聞2025年4月28日号掲載コラム)