【諏訪市観光活性化座談会】長野県諏訪地域振興局長 宮原渉氏 × 諏訪市長 金子ゆかり氏 × 諏訪観光協会会長 佐久秀幸氏


霧ヶ峰自然保護センターを、高原観光の拠点に

 長野県諏訪市を代表する観光資源として、諏訪湖、上諏訪温泉、そして霧ヶ峰高原がある。その霧ヶ峰高原の「霧ヶ峰自然保護センター」が昨年4月にリニューアルオープンした。センター機能の強化、景観スペースの確保、再生可能エネルギーの導入など、高原の活動拠点としての役割に大きな期待が集まる。金子ゆかり市長、佐久秀幸・諏訪観光協会会長、宮原渉・長野県諏訪地域振興局長にお集まりいただき、センターへの期待やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みなどを聞いた。司会は論説委員の内井高弘。(市庁舎で)

 

 ――車山(1925メートル)を中心とした、標高1500メートルほどの霧ヶ峰は景観の美しい高原ですね。

 金子 諏訪湖とともに天与の恵みであり、ブランド力のある自然資源です。さわやかな風を感じられる草原の景観が多くの人を魅了し、観光振興の面でも大きな役割を果たしています。

 霧ヶ峰自然保護センターはその中核施設であり、昨年のリニューアルで機能が一段とアップ。湿原や動植物などの素晴らしさを伝える重要な施設になりました。見やすく、分かりやすくなり、学ぶ場としても最適な施設です。

 

諏訪市長 金子ゆかり氏

 

 ――センターの役割は何でしょうか。

 宮原 センターは、1973年の開設以来、半世紀にわたり、霧ヶ峰高原の自然に対する理解を深める学習の場として、また環境保全活動の拠点として役割を果たしてきました。昨年4月29日に、霧ヶ峰の保護と利用の好循環を生み出すべくリニューアルオープンし、展示の工夫や交流スペースの刷新を行いました。また、新たに設けた眺望テラスや展望デッキでは、眺望を楽しみながら休憩でき、その後フィールドに飛び出し、霧ヶ峰の魅力を実感していただけるように工夫しています。

 霧ヶ峰は自然だけでなく、歴史的にも価値があり、踊場湿原近くの「ジャコッパラ遺跡」や「池のくるみ遺跡」など3万年から1万年前の旧石器時代の遺跡が点在しています。センター見学を通してこれら歴史・文化を学べる環境も整えました。また、2050年ゼロカーボンの実現を目指す「長野県ゼロカーボン戦略」に基づき太陽光発電システムの採用など再生可能エネルギーの導入や省エネ化にも取り組んでいます。

長野県諏訪地域振興局長 宮原渉氏

 

 ――観光協会が指定管理者ですね。

 佐久 施設が古く、県から指定管理の話があった時は受けるのに正直ちゅうちょしました(笑い)。しかし、霧ヶ峰は諏訪湖、上諏訪温泉とともに地域の宝であり、その自然や歴史・文化を知ってもらうのは協会の務めでもあるとして引き受けることにした。幸い1億7千万円を投じてリニューアルされ、素晴らしい施設になりました。

 センターは(1)霧ヶ峰の総合インフォメーションの拠点(2)草原や湿原、人と自然との関わりを学び体験する場(3)エコツーリズムや草原再生などの活動・体験拠点―となります。

 

諏訪観光協会会長 佐久秀幸氏

 

 ――霧ヶ峰の魅力を改めてうかがいたい。

 金子 霧ヶ峰の高層湿原は学術的にも大変貴重で、八島ヶ原、車山、踊場の3湿原を併せ、国の天然記念物に指定されています。わが国有数の古さを誇る湿原であり、その価値を実際に足を運んで感じてほしいですね。また、ニッコウキスゲやヤナギラン、マツムシソウなど高山植物の宝庫です。

 景観の保全・維持のため、外来種の除去や森林化を防ぐための作業などを行っており、多くの人の手によって成り立っています。センターに行けば霧ヶ峰をもっと身近に感じることができます。

 

 ――2次草原で、人間が造り出した草原なんですね。

 宮原 はい、周辺集落の人々の採草により維持されてきた半自然草原です。現在は、霧ヶ峰自然環境保全協議会(会員・42団体)を中心に、地権者、関係団体、ボランティアとの協働による外来種駆除作業、鹿柵設置、ガイド養成、遊歩道・湿原管理を地域ぐるみで行っており、100年後にまでこの景観を残すのが協議会の役目です。

 佐久 霧ヶ峰といえばニッコウキスゲですが、若いころに訪れた時、草原が真っ黄色に染まった光景をみて感動したのを覚えています。鹿の食害でまばらになったが、鹿柵の設置などで徐々に戻りつつありますね。

 

 ――ところで、センターの来館者数は。

 佐久 コロナ禍で減少傾向にあったが、22年の年間累計来館者数は1万4210人となり、コロナ前の19年比では110%の実績を残すことができました。これはスタッフ(3人)の努力の賜物です。

 来館者へのアンケート調査では、96%の人から満足以上の回答をいただいている。ちなみに、来館者は関東エリアが4割、県内が3割です。また、7割は初めて来館したという。宿泊を伴う人は5割を超えています。年齢層は40代以上が8割を占めています。

 

 ――センターを見学した際、給水スポット(ウオーターサーバー)がありました。来館者に喜ばれているようですね。

 金子 市は昨年3月、「ゼロカーボンシティ宣言」を行い、2050年までに市の温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標を掲げました。美しい自然に恵まれたこの土地で、脱炭素社会、循環型社会を市民の皆さんとともに実現したいという思いから、その一つとして給水スポットを設置しました。現在、センターのほか、市役所本庁舎や駅前交流テラスすわっチャオ、JR上諏訪駅内の観光案内所にあります。

 マイボトルをお持ちいただければどなたでも利用できます。マイボトルの普及、プラスチックごみの削減、リサイクルの推進につながればうれしいですね。

 また、昨年4月から市役所で使用する電気を全て実質再生可能エネルギー100%に切り替え、二酸化炭素(CO2)の大幅削減に取り組んでいます。

 

 ――霧ヶ峰高原はサステナブルツーリズムやエコツーリズムの推進に適していますね。

 宮原 霧ヶ峰には、美しい自然環境とともに、旧石器時代や縄文時代から脈々と続く歴史があります。また、諏訪地域には、古代から続く諏訪信仰や味噌(みそ)・寒天など伝統的な食文化もあり、自然と歴史・文化を地域一帯で大事にしている地域です。ですから持続可能な観光やエコツーリズムに最適な地域だと思います。

 佐久 霧ヶ峰高原を持続可能な自然公園として維持するには保護だけでなく、観光の力も借りて取り組んでいくことが重要。すでに協会員がガイドツアーや星空観察などの取り組みを始めているので、今後は連携も必要と考えています。

 また、長年実施している草刈りやニッコウキスゲの植え付け作業などの自然保護活動を組み込んだ体験型ツアーや、定期的に開催する専門家(ガイド)と歩く霧ヶ峰ツアーなど、協会としては今後検討していく必要があるでしょう。

 

 ――素晴らしい景観を損なうのが廃屋の問題です。

 金子 高原の玄関口であり、スキー場もある強清水(こわしみず)地区に廃屋旅館があり、20年余りも放置されていました。まさに喉に刺さったトゲです。撤去に際しては膨大な費用がかかり、所有者不在とはいえ個人の建物解体に税金を投入することにさまざま意見もあり、対応に苦慮していました。

 公費のみでなく、クラウドファンディングを呼び掛けたところ、多くの賛同をいただき、目標額を達成。無事撤去できました。廃屋対策に一石を投じたのではないかと思います。

 

 ――インバウンドも戻りつつありますが。

 佐久 協会では23年度以降の3カ年中期事業計画の策定に着手しており、その中でインバウンド対策も重要と捉えている。センターのリニューアルに合わせ、館内の展示パネルも一新し、英語を併記しました。

 ただ、受け入れについてはセンター単体では限界もあり、市、県に協力を仰ぎ、プロモーション強化を図る。可能であれば環境省や観光庁などの事業に申請し、受け入れ環境も整備したい。

 宮原 諏訪地域は、欧米を中心に世界中で人気が広がりを見せている自然とのふれあいと、文化交流、カヤックやトレッキングなどのアクティビティをかけあわせたアドベンチャートラベルを提供できる多様な魅力あふれるエリアです。地方誘客の強い手立てとなるサステナブルツーリズム・アドベンチャートラベル、そして、高付加価値旅行への取り組みを関係者と連携・協力して促進し、地域一体となり諏訪地域の発展につなげていきたいと考えています。

 

 ――霧ヶ峰高原を活性化するための「KRTプロジェクト」とは。

 金子 霧ヶ峰のK、リボーンのR、タスクフォースのTを意味し、さまざまな方から提言をいただく場です。実行に移せるアイデアは民間主導、官民連携で取り組みます。

 新しい動きもでており、最近では2月に冬のドッグスポーツを楽しむ「新犬ぞり物語」が霧ヶ峰高原で開催されました。霧ヶ峰は長年、警察犬の訓練犬の審査会が開かれており、これを機に「犬の聖地」としてもアピールすることを考えています。

 

 ――センターのリニューアルの成果が期待されます。

 宮原 積極的な情報発信を行い、センター機能の充実とともに、霧ヶ峰の素晴らしさを多くの人に伝えたいと思います。

 佐久 受け入れ態勢を整え、おもてなしの心でお迎えする。リーフレットも刷新し4月の開館前に宿泊施設に配布、宿泊客の「旅ナカ」での目的地選定につながるよう取り組みます。

 金子 最後に、霧ヶ峰はグライダー発祥の地でもあります。強い上昇気流が発生するため、長時間・長距離の飛行が可能で、霧ヶ峰のファンにぜひ体験してほしいです。

 

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