【私の視点 観光羅針盤 425】 避【粉】地ブランディング 吉田博詞


 スギ花粉症の大きなピークが過ぎ去った。私もその一人で、中学3年生から長い付き合いであり、今年に入って仲間入りした人も周囲に複数いる。花粉症の方の正確なデータはないようだが、「鼻アレルギーの全国疫学調査2019」によると、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象にした調査では、花粉症患者は全体の約43%、スギ花粉症は同39%という指標もある。

 今年3月にパナソニックが発表した「花粉症による労働力低下の経済損失額2024」によると、その経済損失額は1日あたりで約2340億円に相当すると発表されている。日本の森林面積の2割弱、国土1割強をスギ人工林が占め、ヨーロッパを中心とした「イネ科花粉症」、アメリカが中心の「ブタクサ花粉症」と並んで、日本の「スギ花粉症」は世界三大花粉症ともいわれている。政府は花粉症に関する関係閣僚会議の決定事項として、昨年10月に「花粉症対策初期集中対応パッケージ」を発表し、(1)発生源対策(2)飛散対策(3)発症・暴露対策に取り組むとしているが、結果が出るまでには時間がかかるだろう。

 そんな中、最近にわかに注目されている言葉がある。避暑地ならぬ、“避粉地”だ。読んで字のごとく、花粉症がつらい時期に、影響が低い地域に避難するという行為を指す。リモートワークが浸透してきた中で、この時期に快適な場所で過ごすことが一つのスタイルになるということだ。

 そこで注目されるのが、花粉の影響の少ない地域だ。スギの植林がされておらず、ほとんど飛散のない沖縄や北海道、奄美諸島や小笠原諸島等の島しょ部がその候補となる。2~4月の花粉ピーク時に一定期間、花粉を回避しながら過ごす、というライフスタイルは今後、伸びる可能性が十分にある。ワーケーション誘致という概念がピークを過ぎた中で、これらの地域は「春こそ避粉地」をテーマに、滞在を提案していければ大きな需要が見込めるだろう。

 春休みや卒業旅行といった行楽、行政案件等の納品や確定申告に向けた書類整理といった集中作業、既にリタイアした方向けの長期滞在の場所として、といったテーマも考えられる。花粉症の方にとって、この春の時期にマスクなしで思いっきりおいしい空気を吸えるという感覚は大きな幸せであり、生産性の向上を含めて大きな波及効果が見込めるに違いない。

 昨今、二拠点居住やマルチ拠点生活、デジタルノマドといった概念も普及してきた中で、今でこそ避粉地での一定期間の生活ということは花粉症発症者には十分に響くし、テーマが特化されているがゆえにターゲティングもしやすく、普及もしやすいように感じる。

 地域のブランディングにおいては有名な資源の宣伝、新たな特産品やイベントの開発等に偏りがちだが、何かの障壁に困っている方に向けて、その解決のフィールドとして滞在提案をしていく流れは今後、大きなポテンシャルがある。まずは手始めに来春の避粉地として、先述の各エリアにおいて花粉を回避しながら生産性を向上させ、地域経済にも貢献するよい循環が創出されていることを願いたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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