【私の視点 観光羅針盤 420】プア・ジャパンと観光 石森秀三


 世の中には「泰斗」と称される碩学(学問が広く深い大学者)が存在する。泰斗とは大家として尊ばれ、高く評価される第一人者の意。泰斗は「泰山北斗」の略、泰山は中国の名山、北斗は北斗七星、共に誰からも仰ぎ見られることから一つの分野の第一人者として尊敬される人を「泰斗」と称するようになった。

 野口悠紀雄氏は「経済学の泰斗」と称されている碩学。野口氏は1940年生まれ、東大工学部卒業後に大蔵省に入省、その後、米国エール大学で経済学博士号を取得し、一橋大、東大、早大などの教授を歴任。

 野口氏は昨年『プア・ジャパン:気がつけば「貧困大国」』(朝日新書)を出版して話題になった。本書の冒頭で野口氏は「日本の貧しさが、さまざまなところで目につくようになった。アベノミクスと大規模金融緩和が行われたこの10年間の日本の凋落ぶりは、目を覆わんばかりだ」と述べている。2000年には1人当たりGDPがG7諸国中で最上位だったが、現在は最下位に低迷。12年には日本の1人当たりGDPは米国と同水準だったが、現在は約3分の1に低下。

 1950年代から70年代にかけて、日本は高度経済成長を実現し、80年代には世界のトップに立った。野口氏は「日本衰退の基本的な原因は、日本の経済・社会の構造が世界の大きな変化に対応できなかったことだ。高度成長という成功体験のために経済・社会構造が固定化し、それを変えることができなかったのだ」と指摘している。

 実は観光業界にとって哀しいことであるが、野口氏は「外国人旅行者の急増は『プア・ジャパン』の象徴」と論じている。要するに、外国人旅行者の急増は日本の貧しさの結果というわけだ。日本の観光地の価値が高まったために、外国人が高いお金を払って日本に来るようになったのではなく、日本での旅行や買い物が安くなったために生じた現象とみなしている。しかも、かつてユーロが導入される以前の時代に、豊かなドイツの労働者はバカンスになると物価が安いギリシャを訪れた。それと同じことが生じたとみなして、「日本はアジアのギリシャになった」と指摘している。極論と言えば極論であるが、「言い得て妙」と言えば絶妙と言えるだろう。

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