【特別対談】みなかみ町長 阿部賢一氏 × みなかみ町観光協会代表理事 小野与志雄氏


群馬県みなかみ町観光活性化特集

 新型コロナウイルス禍で大きなダメージを受けた群馬県みなかみ町の観光業。しかし、コロナ禍収束の兆しが見え始め、町に活気が戻りつつある。昨年10月のみなかみ町長選で初当選した阿部賢一町長と小野与志雄・みなかみ町観光協会代表理事(宝川温泉汪泉閣)にこれからのみなかみ観光の在り方を語っていただいた。司会は論説委員の内井高弘。(町長室で)

 

 ――町長は昨年10月の選挙で初当選を果たしました。町政における観光の位置付けは。

 阿部 町長選では観光業、商工業、農林業の振興をメインに訴えた。観光はすそ野が広く、ここが元気になることが町、そして経済の活性化につながるとの認識だ。

 コロナ禍の影響で、入込客数はここ数年、宿泊客が110万人台、日帰りは260万人台で推移していたが、2021年度はそれぞれ58万人、156万人となっている。20年度よりは増えているが、厳しい状況に変わりはない。コロナ前にはほど遠い数字だが、県のキャンペーン(愛郷ぐんまプロジェクト)などで回復傾向にある。

 問題は全国旅行支援を含めた需要喚起策が終わった後だ。幸い多くの観光資源に恵まれている。それら資源の有効活用や新たな発掘により、リピーターを増やしたい。いずれにしろ、観光関係者との連携が欠かせず、営業攻勢を強め、団体客も含めた誘客にも努めていく。

 みなかみ町長 阿部賢一(あべ・けんいち)
1963年12月15日生まれ。みなかみ町出身。県立農業大学校卒。町議(5期)を経て、2022年10月28日町長就任。

 

 ――代表理事は業界の現状をどう捉えていますか。

 小野 人手不足が大きな問題だ。移動制限がなくなり宿泊客が増えているのは明るい兆しだが、人手が足りず営業しないという旅館・ホテルも出ている。人の確保が重要で、町には人口増につながる移住・定住促進に向けた施策を期待している。

 また、町長も指摘されたが、支援策が打ち切られた後の需要掘り起こしをどうするのかが課題といえる。行政と力を合わせ、対応していきたい。

みなかみ町観光協会代表理事 小野与志雄氏(おの・よしお)氏
1964年3月23日生まれ。沼田市出身。みなかみ町観光協会理事、副理事長兼専務理事などを経て、2021年代表理事就任。

 

 ――みなかみの魅力は何でしょうか。

 阿部 首都圏からのアクセスの良さだ。東京から上越新幹線で約1時間、高速道を使えば1時間半ほどで来られる。ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)として認められた雄大な自然と、利根川を利用したアウトドアアクティビティも充実。加えて、個性豊かな大小18の温泉地があること。子どもから大人まで楽しめる。雪も豊富で、スキー場もある。

 

 ――水際対策が緩和され、外国人旅行者も増えていますね。

 阿部 現状まだ少ないが、これから増えてくるだろう。昨年12月に友好協定を結んでいる台湾・台南市を訪れ、市長や旅行会社のトップらと会談した。23年度は協定10周年の節目であり、交流に弾みをつけることを確認した。コロナ禍で中止していた中学生の海外派遣事業先として同市を訪れる計画もある。

 インバウンドはあまり広げることなく、台湾やタイなど的を絞ってアピールしていく方針だ。多言語表示も地域全体に広めるなど、受け入れ態勢も整備する。

 小野 やはり首都圏から近いということ。鉄道、車、どちらを使っても短時間で来られるのは大きなメリットだ。自然、温泉は申し分なく、アクティビティ環境はどこにも負けない。おまけにSLやダム、観光農園など新鮮な食材もある。

 

 ――選択肢が多く、観光客は迷いそうですね。

 小野 旅行者の視点に立てば、例えば温泉とアクティビティがパック化され、その中から好きなものを選ぶというのがいいのだろうが、手数料などの問題もあり、現状、パック化できていない。アクティビティの人気は高いのだが、旅館の売り上げに直接結びつかないのがもどかしい。OTAを含めた旅行会社の協力、理解を求めたい。

 

 ――今後の観光振興策は。

 阿部 アフターコロナを見据え、これまでの振興策をベースにマーケテイングなどを実施しながら、観光協会をはじめとして商工会や町内事業者を含め幅広く意見交換し情報を共有する。その上で観光関連施設の検証と改革、そして新たな商品開発に努める。SDGsとそれを支える持続可能な観光も積極的に推進する。

 公約で掲げた「みなかみファンクラブ」構想を実現させ、みなかみに目を向けてもらえるような仕組みを作りたい。移住・定住の促進につながり、人口減に歯止めがかかればと思う。

 小野 インバウンドをもっと積極的に受け入れることと、県が推進する「リトリート」(日常を離れて心身を癒やす旅行スタイル)について勉強会を始めたい。

 インバウンドについてはずいぶんと戻っており、当館で外国人が7~8割を占め、日本人客と合わせると満館になる日も少なくない。露天風呂が人気で、湯浴み着があるので「人目を気にすることなく安心して入れる」とのお声もいただく。外国人客が増えるのは大歓迎だが、日本人客とのバランスも考えながら受け入れていきたい。

 

 ――魅力ある観光資源が多いみなかみですが、弱みといえば。

 阿部 資源が広く点在しており、これをつなぐ2次交通の整備が遅れている。県や各分野の関係者と連携を図りながら対策を検討していく。レンタカー利用の促進についても、例えば割引券を発行することも考えられる。大きな補助はできないが、心理的な負担を軽くすれば利用も増え、2次交通の弱さをある程度カバーできるのではないか。

 小野 個性ある温泉地が18あるのは町の強みだが、町長が指摘するように各地に点在し、それらを結ぶ線がないのが弱点だ。当館も上毛高原駅まで送迎バスを出しているが、年間1千万円ほどかかる。バスやタクシーも需給バランスをとる必要があることは承知しているが、何とかしてほしいというのが本音だ。

 

 ――観光予算はどのくらいですか。

 阿部 22年度当初予算は約10憶円。財政事情も厳しく、増額はなかなか難しいが、現状に合った観光振興策を推進する観点から予算をつけたいと思っている。

 

 ――温泉地の景観を損なうものに廃屋旅館の問題があります。JR上越線の水上駅周辺でも廃屋旅館が目立ってましたが、ずいぶんと整理されたようですね。

 小野 「源泉湯の宿松乃井」などを展開するシーガル・リゾートイノベーションが積極的な再開発事業を進めており、旧蒼海ホテルも解体・改修中で、間もなく高級旅館として開業すると聞いている。移住・定住した人たちが潰れた店をリニューアルオープンする動きも目立っており、活性化しつつある。楽しみだ。

 

 ――アフターコロナ時代におけるみなかみ観光はどうあるべきですか。

 阿部 体験メニューに対する商品の磨き上げはもちろん、観光地全体としての魅力や稼ぐ力を高める取り組みを推進する。観光庁の事業である「地域一体となった観光地の再生・観光サービス高付加価値化事業」などを利用しながら、宿泊施設の改修や廃屋撤去などの計画的・継続的な取り組みが可能となるような支援を行い、面的なDX化なども同様に支援していく。

 小野 いまある資源を生かし、魅力ある観光地づくりにまい進する。行政に頼ってばかりもいられない。協会の良識ある人の声を集め、精査してお願いするのが筋だろう。2次交通の問題については、実現は難しいだろうが「白タク特区」的なものを作り、実験してみるのも手ではないか。

 

 ――みなかみ観光の発展に向け、メッセージをいただきたい。

 阿部 力を合わせて頑張ろうということ。先行きは明るいと信じて、ここは精神論で乗り切っていくしかない。皆が営業マンという気持ちで臨んでいただきたい。

 小野 コロナ禍で旅行ニーズも変化している。ミスマッチを起こさないよう事態を冷静に分析し対応していこう。

 

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