【特別寄稿】ウェルビーイングを手に入れるウェルネスツーリズム 


琉球大学 荒川教授

「旅の原点回帰」「つながり」「再生」

急成長する世界のウェルネスツーリズム

 ウェルネスツーリズムは、成長著しいウェルネス産業の中でも最も急成長するセクターである。世界の市場規模予測を行う国際ウェルネス機構(GWI)によると、2012年から19年までウェルネスツーリズムの世界旅行回数は毎年8.6%増加し、19年には世界で9億3640万回とピークに達した。COVID―19パンデミックの影響で20年には大きく落ち込んだが、その後22年にかけて毎年30.2%増加、支出は毎年36.2%と驚異的な成長を遂げた。

 今後、世界のウェルネスツーリズム市場はパンデミック以前の水準を上回ると予測され、27年までの年間成長率は14.7%、支出は16.6%と予測される。ウェルネスな旅は平均的な旅行よりも消費額が高い高付加価値型であり、世界中のディスティネーションでのメインテーマの一つとなっている。

旅の原点回帰へ

 100年に1度といわれる未曽有の大災害を経て旅も変化、「原点回帰」へと向かっていくであろう。なぜ人は旅をするのか。その答えは、新しい土地への好奇心が、われわれの遺伝子にまで組み込まれた本能であり、生存戦略の一つだという説もある。旅先での見聞、体験、交流、感動は、ストレスを発散し心身の健康効用をもたらすとともに、豊かな人生、輝く人生の一部となる。人間の基盤欲求でもある安全安心、健康、医療への需要とともに、新しい生き方、働き方のヒントを求める需要も全世界規模で高まっている。

世界に通用する日本のウェルネスツーリズム

 世界的にニーズ高まるウェルネスツーリズムでの誘客には、日本の固有性を議論し、他の国々にはまねのできない真正の価値を提供する必要がある。日本が世界に対して優位に提供しうる最高価値の一つは長寿世界一。日本の長寿とは、間違いなく世界に誇るブランドとなり得る。

 わが国は温帯で穏やかな気候に恵まれ、四季折々の美しい自然と情緒にあふれ、四方を海で囲まれた島しょの多様性を育み、世界有数の温泉大国であり、地域固有の食材を有し、世界無形文化遺産に登録された和食、独自の発酵技術は海外の一流シェフたちに高く評価されている。豊かな自然、食資源に加え、世代を超えて受け継がれてきた歴史文化、伝統芸能、様式美の数々、「禅」「道」を究める精神性を備える国日本。自然への対峙(たいじ)をみても、欧米は自然を「支配」「克服」していく自然観に対し、日本人は「畏敬」や「共生」の念をもって寄り添ってきた。震災の多い国が故に育った精神風土「もろさ」「刹那」「はかなさ」「無常」などから、やがて「わびさび」「花鳥風月」「雅」「粋」といった日本人特有の美意識を形成し芸術にまで昇華していった。世界の知識階層、富裕層、旅の達人であるほど、日本の「和」に魅了されるであろう。

 長寿世界一の要因に、自然社会環境因子、食文化、精神文化、日本的ライフスタイルや情緒的価値をひもづけることで、ここ日本には輝く人生、よりよく生きる「ウェルビーイング長寿」のヒントがあるとの発信はどうだろう。従来の観光資源から、ウェルビーイングを手に入れる「ウェルネス資源」という新しい価値が地域資源に生み出せる。世界で優位な競争力を発揮できる”ジャパンブランドウェルネス”の確立が今、期待される。

つながりと再生のウェルネスツーリズム

 日本は、自然、人、地域とのつながり、共生から再生を果たしてきた国である。美しくも時に大災害をもたらす自然への畏敬の念と共生(自然とのつながり)、世代を超えて受け継ぐライフスタイル(先人の知恵とのつながり)、相互扶助、コミュニティ(地域とのつながり)を大切にし、長寿世界一を手に入れた。

 つながりが希薄になる現代、ウェルネスツーリズムとは、自然、人、地域とつながる交流機会を提供し、地球レベルの運命共同体的視野を醸成し、そこでどう自然を再生し、人を再生し、地域を再生していけるかを志向する旅となる。

 健康を「内なる自然」と捉えれば、体内環境を良くするウェルネスツーリズムは”人の再生”ツーリズムであり、訪れるほどに自然の健康(再生)、地域の健康(再生)にも寄与する世界最新のリジェネラティブトラベル(再生観光)ともなるだろう。

ウェルネスディスティネーションアワードの創設

 日本初となる国際ウェルネスツーリズムEXPOでは今年「ウェルネスディスティネーションアワード」が創設された。各分野の第一人者らが厳選した、ウェルネスな体験滞在を通じてライフスタイルや生きがいにヒントが得られ人生が豊かになる旅先地TOP10が会期初日に発表される。

 よりよく生きる、生き方のヒントがここにある。ウェルビーイングを手に入れる日本のウェルネスツーリズムをここから世界に発信できることを期待する。

国立大学法人琉球大学
国際地域創造学部 ウェルネス研究分野 
教授 荒川雅志氏
 
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