【日本ふるさと紀行 39】御宿(千葉県御宿町)~抒情が息づく南国的な海辺の町 旅行作家 中尾隆之


「月の砂漠」と加藤まさをと

 ♬月の沙漠をはるばると旅の駱駝がゆきました~

 何かの折に私がふと口ずさむ歌に「月の沙漠」がある。どこか異国を思わせるが、舞台は千葉県南東部の御宿(おんじゅく)という。そのゆかりを訪ねて外房線の特急に乗った。駅前から背の高いヤシ並木のロペス通りを5~6分歩き、右に折れてほどなく海に出た。

 小さな砂丘に王子様とお姫様と2頭のラクダの「月の沙漠記念像」があった。

 建てられたのは50年前。作詞の加藤まさをが雑誌の「少女倶楽部」に発表したこの詞はたちまち評判をとり、佐々木すぐるの曲で童謡として大ヒットした。

 歌の舞台はどこか話題になったが、加藤はとくに明かさなかった。もちろんアラビアどころか海外にも鳥取にも行ってないという。

 ただ加藤は学生時代から療養のため御宿の浜見屋旅館に幾夏も来て、浜辺を歩き、親しい友人も得た。長く疎遠だった友と再会の時に「歌の舞台は御宿海岸」と語る。それが広まり、多くの人が訪れた。町では記念像建立の機運が高まる。友人・内山保はこの時、御宿町商工会長。観光に利用されるのは嫌という加藤に抒情の町づくりのためと説得して実現にこぎつける。

 記念像の立つ浜辺はやわらかな白砂。夏はビーチパラソルや水着で華やぐ。初冬は人影もまばらだが、波頭が大きくめくれる海にサーファーの姿があった。

 振り返るとアラビアの王宮を思わせる「月の沙漠記念館」がすぐ近くに。「月の沙漠」の展示をはじめ、詩人・抒情画家として名をなした加藤まさをの作品や資料を展示していた。

 加藤の生まれは静岡県藤枝市。中学から東京に出て立教大学に学び、25歳の時に「月の沙漠」を書くなど、大正から昭和にかけて竹久夢二や蕗谷虹児らとともに抒情絵画の名を高めた。

 最晩年は第二の故郷と呼ぶ御宿に夫人と移住。80歳の生涯を閉じ、町内の最明寺に共に眠る。歌のように二人並んで。

(旅行作家)
●御宿町観光協会TEL0470(68)2414

 
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