【ちょっとよろしいですか133】跡見学園女子大学「観光温泉学」の授業で草津温泉から配信しました 山崎まゆみ


 跡見学園女子大学で「観光温泉学」を教えて8年目になりました。本年度も多くの学生さんが履修してくれて、その理由を尋ねると「先輩からの推薦」という口コミです。それなら「もっと面白い授業を!」とますます力が入ります。

 キャンパスのホールの講義ではリアルな温泉を伝えるには不十分ですので、2024年度は草津温泉の湯畑と裏草津エリアを歩きながら、配信授業にチャレンジしました。100分間の授業がゆうに持つほど、草津の温泉街は魅力に事欠きませんし、温泉地の過去と現在、そして未来を考えるには最適な場所です。湯けむり上がる湯畑をイメージすると、暑い印象があるかもしれませんが、草津町は標高が高い避暑地で、7~8月でも平均18度。私が配信授業を実施したのは春の大型連休明けでしたが、例年より気温の低い日となり、薄手のダウンコートを着たほどです。

 草津の歴史は湯畑を歩けば一目瞭然です。古墳時代の大和朝廷の頃に日本武尊が東征帰途の折に温泉を発見したと伝えられ、江戸時代には8代将軍・徳川吉宗が草津の湯をくみ上げ、江戸城に運ばせて入浴。明治時代にはドイツ人の医学者ベルツ博士が草津を訪れ、草津温泉を世界に紹介しました。

 こうした草津を訪れた偉人・著名人の名前は『草津に歩みし百人』の碑として湯畑の石柵に刻まれてあり、授業中、学生さんには刻まれた名前をカメラで見せてみました。また湯畑の源泉地帯の中で四角い枠で囲った部分が、江戸城に運ばせた“御汲(く)み上げの湯”の源泉ですので、そこを映し、はるかいにしえに思いをはせてもらいました。毎日、湯もみショーを開催する「熱乃湯」前では、草津伝統の「湯もみ」は源泉温度50度の湯を人が入れる適温にまで冷ますためであること、それは江戸時代から続く人の知恵なのだと、伝統的な入浴法を示すことができました。

 草津温泉の成り立ちについては、諸説ありますが、よく語られるのは白根山に降り注いだ雪や雨が地中深くに染み込み、地下のマグマの熱で温められ、いろいろな成分を取り込みながらゆっくり標高の低い場所に移動したという説。こうした話も、毎分4千リットルの湯量を誇る湯畑源泉の前で語れば、学生さんの理解も深まるというもの。湯畑には7本の湯樋があり、ここで外気に触れてお湯が冷やされる。湯量豊富で高温ゆえに、町の道路の除雪に使う源泉もある―など、草津の六つの主要源泉についても話しました。

 コロナまん延中、どこの温泉地も積極的な誘客はしにくかったですが、草津は違った。そもそも草津のような酸性の湯は殺菌効果が期待できます。加えて草津の湯は、さまざまな要素が奇跡的に組み合わさり、「コロナウイルスに勝つ」というエビデンスが得られたそうで、湯畑に「手洗いの湯」を新設し、その横にはコロナウイルスに及ぼす影響が解説されています。これも、不測の事態が起こった時の温泉地の対応という点で、授業では重要な素材となりました。

 その後、湯畑から路地に入り、いま注目の裏草津地蔵エリアに移動。この辺りは2022年以降に整備され、おしゃれなカフェや漫画を読める図書館など、学生さんが好みそうなスポットを映しつつ、足湯や手湯、顔湯もできたことも紹介。実際に私が顔湯を体験して見せました。エリアの中心に鎮座する「地蔵の湯」の前で、共同湯で使用される湯小屋建築の説明もしました。

 こうして配信授業をしたことで、あらためて認識しました。決してアクセスに恵まれた温泉地でないにも関わらず、「にっぽんの温泉100選」で草津温泉が21年連続1位のその理由、それは歴史を重んじた上でのたゆまぬ努力だったのです。

(温泉エッセイスト)

 
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