館内作業の固定観念打破、従業員をマルチタスク化 厚労省の生産性向上マニュアル


旅館ホテルの事例を掲載

 厚生労働省がこのほど作成した「生活衛生関係営業の生産性向上を図るためのマニュアル」に、旅館・ホテル業の取り組み事例が掲載されている。「固定観念を打破して生産性を大幅改善」「従業員のマルチタスク化で生産性を向上」など、いずれも同業者の参考となる取り組みだ。数例を紹介する。

 神奈川県箱根町で7軒の旅館・ホテルを運営する「一の湯」は、「やめる仕事の発見」で館内の仕事を見直し、生産性を向上させている。

 同社は人件費の重みが経営を圧迫していると、同費のマネージメント(管理)に着手。新たな指標「人時生産性」(労働時間当たりの粗利益)を導入し、この数字を改善するために、「やめる仕事の発見」「省力化できる取り組み」を推進した。

 具体的には、「各部屋での食事サービス」「布団敷き」「冷蔵庫の飲み物販売」「下足番」など、これまで旅館で当たり前といわれていたサービスを廃止するとともに、案内表示を増やすなど、人手がかかる作業を低減した。

 これらの取り組みにより、人時生産性が当初の1時間当たり約1400円から約6千円へと3倍以上改善。仕事の見直しで捻出された時間を接客サービスに活用することで顧客満足度が向上し、客室稼働率80%以上という高水準を実現している。

 三重県湯の山温泉の旅館「希望荘」は、コスト削減、顧客満足度向上を目指して作業効率の向上に取り組んだ。

 従業員の経験や記憶を頼りに宿泊客の情報を予約台帳に手書きで記入していたが、顧客管理の効率化を決断し、顧客情報管理システムを導入した。1日3時間かけていた部屋割り台帳の手書き作業が約15分の入力で完了するようになり、業務の効率化を図るとともに、リピート客の食べ物の好みや送迎バス利用の有無など、従業員同士が宿泊者情報を共有できるようになった。

 さらに従業員のマルチタスク(複数作業)化「1.5人化生産性向上運動」を推進。フロント従業員が配膳業務を行ったり、送迎バス運転手が布団敷きを手伝うなど、他部署の業務をサポートしあう仕組みを構築した。配膳や布団敷きで宿泊客を待たせることが少なくなり、サービス向上と生産性向上を同時に実現したという。

 鹿児島市の「温泉ホテル中原別荘」は、食物アレルギー対応メニューを開発し、修学旅行市場におけるシェア拡大を図った。

 従来から修学旅行客を積極的に受け入れていたが、食物アレルギーを持つ子どもが増え、従来のような個別対応が難しくなった。

 そのため栄養士や研究者の協力を得て、特定原材料等27品目不使用の食物アレルギー対応メニューを開発。パンフレットやホームページで公開したところ、「修学旅行で食事が選択できる宿」と注目され、鹿児島県内の修学旅行市場におけるシェアが拡大した。

 食物アレルギー対応メニューは味と品質を優先させるため食材原価が通常のメニューより割高というが、従来の個別対応に関わる打ち合わせや食材手配、配膳の作業が低減されるなど、トータルで管理コストの削減につながっているという。

 京都市の「京都堀川イン」は、二条城を間近に望む従業員約20人のビジネスホテル。以前から光熱費が増加傾向との懸念があり、固定費削減、収益改善に向けて同費の削減に取り組んだ。

 これまでより省エネ効果の高い空調設備、変圧器、業務用給湯器を導入するとともに、従業員に向けて省エネ意識を徹底。不要な電気をこまめに消したり、空調の温度をこまめに設定するなどの対応を行った。

 これらの取り組みで光熱費を前年比約25%削減させることに成功。ほかにも全客室での無料Wi―Fiなど、宿泊客が快適に過ごせるサービスの提供に努めている。

 
 
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