観光庁や東北6県、東北観光推進機構などが主催する「東北観光応援します!!〜東日本大震災から3年〜シンポジウム」が9日、東京都千代田区のベルサール半蔵門で開かれた。観光に携わる多様な関係者の発表やパネルディスカッションで、観光を通じた復興支援の取り組みを振り返り、復興の先にある東北観光の新たな可能性を探った。
主催者を代表し、観光庁観光地域振興課の川瀧弘之課長が「震災から3年、さらに観光に力を入れ、東北の復興を加速させていく。このシンポジウムを『東北へ行こう』という機運が生まれる場としたい」とあいさつした。
第1部では、震災からこれまでの歩みを共有し、東北の復興につなげようと、各地域、各団体の活動が発表された。
岩手県宮古市の宮古観光協会会長の澤田克司氏は、語り部が防潮堤の上に参加者を案内して震災について解説する「学ぶ防災」の活動を説明し、「今後は震災遺構の『たろう観光ホテル』をプログラムに取り入れるなど、震災という負の遺産を逆手に取って防災学習を推進したい」と語った。
福島県郡山市出身で「女子の暮らしの研究所」代表を務める日塔マキ氏は、震災を契機に福島の現状を女性の視点から発信する活動を開始。南相馬市小高区の旅行者受け入れなどに関わり、地域住民や旅行会社と連携した視察ツアーも手掛ける。「福島の未来を考える仲間が増えることを願って今後もツアーを続けていきたい」と語った。
寄付を資金に47都道府県の大学生をボランティアとして被災地に送り込む活動は、公益社団法人・助けあいジャパンが「きっかけバス47」プロジェクトとして展開。学生統括リーダーの白井宏美氏(早稲田大4年)は「社会人の応援で活動する責任を自覚し、今後も東北に貢献すると同時に、被災地に学んだ教訓を全国に根づかせたい」。
きっかけバス47で静岡県のリーダーを務めた仁田直人氏(静岡大1年)もマイクを握り、「最初は個人の自転車旅行で被災地に入ったが、これで『東北を見た』と言えるのか不安になってプロジェクトに参加した。現地では学生が東北や日本について語り合う姿に感動した。東北に行き、学生が変わった」と語った。
このほか観光産業界からは、日本旅行業協会事務局次長の池田伸之氏が東北の観光需要は震災前の水準に戻っていないとして、沿岸部の需要喚起、冬季の需要喚起などに継続的に取り組む姿勢を強調。山形県天童市の天童温泉ほほえみの宿滝の湯専務の山口敦史氏(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部部長)は、東北のインバウンド振興に向け、東北の旅館が連携して情報発信や受け入れ整備を進める構想の推進に意欲を示した。
地域を巻き込む観光へ
第2部では、「新しい東北観光のカタチ」をテーマにパネルディスカッションを行った。復興関係の情報を発信している「東北復興新聞」の発行人、本間勇輝氏を進行役に4人が意見を述べた。
被災しながらも再起し水産加工品の製造・販売などを手掛ける斉吉商店(宮城県気仙沼市)の専務、斉藤和枝氏は、魚市場で朝食を楽しむイベント、遠洋マグロ漁船の乗船体験ツアーなど、水産業などと観光業の連携に取り組み、地域の復興の活力にしている。
斉藤氏は「出港する漁船をみんなで見送る『出船送り』などの活動を続けたことで漁師との関係を築くことができた。地元の産業と観光客の接点となるツアー、両者が混ざり合う場づくりを今後も続けたい」と話した。
JTB旅行事業本部国内商品事業本部副本部長の平野利晃氏は、地域交流型の旅行商品「地恵のたび」の復興支援・防災学習プログラムなどを紹介し、「旅行者からは地域との触れ合いが求められており、地域住民と旅行会社が手を携えて取り組むことが大切。そこには地域を愛する心とマーケットを見る冷静な視点が必要」と指摘した。
JR東日本鉄道事業本部営業部次長の高橋敦司氏は、昨年運行を開始した、八戸線の“走るレストラン”列車「TOHOKU EMOTION」を沿線などから歓迎する地域住民の自発的な活動に触れ、「観光客が来ることがうれしいという気持ちが地域に芽生えたことが大事。子どもたちが東北に残り、次世代の東北観光を受けとめられように取り組む」。
人材育成などを任うNPO法人・十和田奥入瀬郷づくり大学(青森県十和田市)の生出隆雄氏は、地元の高校生にガイド研修の場を提供する活動などを説明し、「奥入瀬の世界遺産登録、十和田湖周辺の景観整備などの夢を持って進みたい。土台となる人材を育て、地域を次世代に引き継いできたい」と語った。
震災3年を踏まえ、東北観光を考えるシンポジウム(9日、東京都内で)