観光庁・蒲生長官が就任後初の会見


観光庁の蒲生長官

成長にインバウンド必用 宿泊業の生産性向上課題

 観光庁の蒲生篤実長官は21日、就任後初となる専門紙向けの記者会見で、観光施策の考え方などを語った。

 観光政策は、旅行者数などに意欲的な数値目標を掲げ、インバウンドを中心に成長を目指してきた。しかし、新型コロナウイルスの流行で環境が一変した。

 「観光産業のプレゼンスを高めるため、数字として産業規模を大きくすることは非常に重要だ。特に観光はすそ野が広い。地域経済を支える上で、一定程度の大きさを求めることは今後とも重要になる。ただ、アフター・コロナ、ウィズ・コロナという時代に、例えば、3密を避けるなど、これまでとは違う新しい生活様式のニーズが出てくる。その中、成長一辺倒で大きくすればいいんだということで進むのかどうか、いろいろなご意見が出てくると思う。

 官邸の方(政府の観光戦略実行推進会議)では今、訪日外国人旅行者数というより、海外から富裕層に来てもらい、訪日旅行消費を増やすことを一つの流れとして議論している。多くの方々に日本の文化や自然に触れてもらうことは国際交流において重要だが、日本経済に裨益(ひえき)する方々に来てもらうことも重要だ。1人で1泊100万円を使うというようなお客さまが、日本に魅力を感じて訪れるような環境をつくっていくことは、訪日旅行消費額15兆円などの目標の実現につながる。

 今はコロナ禍で先が見えず、民間企業の投資などには逡巡(しゅんじゅん)があるかもしれないが、コロナの一定の収束とか、ワクチンの開発とか状況が変わってくれば、魅力的な自然があり、そこでしか得られない経験があるような地域に、1泊100万円するようなホテルをつくり、富裕層を誘客するという方向性は一つあるだろうと考えている」

 観光立国推進基本計画は改定時期を迎えている。現計画の2020年の目標、訪日外国人旅行者数4千万人の達成は困難だ。一方で政府は30年に6千万人という目標を掲げている。

 「わが国の人口、生産年齢人口が減少する中、外国人に日本に来てもらう、日本で消費してもらう、日本人と一緒に働いてもらうということは、わが国の成長戦略にどうしても必要だ。6千万人という数字をどうこうとは言えないが、われわれとしては追い求めていきたいという気持ちがベースにある。観光立国推進基本計画の改定に向けた議論の中、審議会の有識者などに意見を聞いた上で今後の目標などについても考えたい」

 インバウンドの回復が見込めない中、「Go Toトラベルキャンペーン」など、日本人の国内旅行の需要喚起が課題となっている。

 「国内の旅行マーケットの中で日本人の国内旅行は大きい。消費額全体の約8割を占めている。マイクロツーリズムといわれる中で、地域における観光をまずは活性化させて、安全、安心な観光として皆さんに楽しんでもらう。その延長線上に地域を越え、さらに全国に、そして国際観光へ、というのがみんなが安心できる流れだ」

 宿泊業の活性化に関して観光庁は、生産性向上などの施策を推進してきた。観光庁の検討会は、投資の停滞、施設の老朽化、サービス・客単価の低下という「負のスパイラル」を課題として、地域の旅館に投資を呼び込む枠組みなども提示した。

 「生産性向上にはデジタル化などが重要であるとともに、一般的な傾向として事業規模が大きい方が生産性が高くなる。一方で地域に根付いて、地域の特色を生かしたサービスを提供するためには、規模が大きすぎてもという意見もある。生産性だけではない領域も一定程度は必要だが、全体とすれば、日本の人口構成の見通しから人手不足になると指摘されているので、生産性を上げていくことは重要だ。

 事業承継に当たって、事業承継を通じた規模の拡大、また、M&Aとは言わないが、例えば、所有と経営を分離するような、今までの旅館業界、宿泊業界にはなかった新しい手法も検討の対象になる。環境を整えて、こういう手法がある、こういう効果があるということを横展開したい」

 観光庁は、観光地域づくりの中核としてDMOの形成を促してきた。現在、観光庁の登録制度には全国の162法人が登録されている。さらに「重点支援DMO」として32法人を選定した。

 「一定の能力、ポテンシャルを持っているDMOを有識者の審査を踏まえて選定した。先進的な、他の目標となるようなDMOを重点的に伸ばし、世界に誇れる観光地を各地域に一定程度つくっていく。それがロールモデルになって周りの地域を盛り上げ、さらにレベルアップさせる。

 具体的には、地方運輸局に観光部ができて5年ぐらいになり、観光人材も増えてきているので、職員をアドバイザーとして現地へ派遣し、助言、サポートを行う。運輸局がネットワーク化している有識者も活用する。地域のニーズに応じた情報提供には、ネット会議なども活用したい。

 観光庁の補助事業でも、採択に当たり、重点支援DMOは、取り組みに明確なものを持っているところが多いので、優先的に選ばれていくのかなと思っている。また、DMOとJNTOの連携も強化する。今は海外事業が制約を受けているが、しっかりインバウンドができるようになった時の環境整備を進める。世界的なDMOの知見なども伝えていく」

 観光産業やDMOを支える観光人材。即戦力となる現場の人材に加え、トップレベルの人材や中核的な人材の育成が課題となっている。

 「日本の観光業界には、優秀で素晴らしい方がいると思うが、数としては非常に少なかったと思う。これからの時代、どんぶり勘定ではなく、外に説明できるようなファクトやロジックを使って経営をマネジメントできる人が必要だ。最先端の経営学の知識、経験を持った人が必要になる。観光には語り部みたいな一家言持った方も重要だが、科学的なバックグラウンドを持った人がもっと増えた方がよい」

観光庁の蒲生長官

 

 
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