観光庁、ビッグデータを活用し8地域で観光動向分析


 インターネット上などに蓄積される膨大で多様な情報「ビッグデータ」。観光庁は、観光振興にビッグデータを活用する手法の検討に乗り出した。活用するデータは、携帯電話の特定サービスの利用者のうち許諾を得られた約70万人分のGPS(衛星利用測位システム)による位置情報。試験的に8地域の観光客の行動パターンの把握、分析に利用する。今年度内に分析結果をまとめ、旅行商品の造成や観光地域づくりに生かす手法の構築を目指す。

 活用するデータとして選んだのは、地図を活用したソリューション事業などを手掛けるゼンリンデータコムの「混雑統計」。地図・ルート検索アプリの利用者のうち、許諾を得られた範囲で蓄積した約70万人分の携帯電話から連続して発信される位置情報を統計処理したもの。観光庁は、個人情報と関連性のない統計データをゼンリンデータコムから受け取り、観光動向の分析に生かす。

 位置情報に基づく統計データからは、聞き取り調査や記入式アンケートではつかみきれない観光客の動きが把握できると期待されている。入込客数の調査などで採用されている調査員の聞き取りが特定日の定点での調査であるのに対し、位置情報の統計データは移動、滞留といった人の動きを長期にわたって観測しているためだ。

 分析項目の案として挙がっているのは、対象地域に流出入する観光客の出発地や交通手段、宿泊の状況のほか、地域内での滞在分布や地域ごとの平均滞在時間、前後に滞在した地域といった周遊状況など。観光客の動きは、任意の期間を指定して日別、曜日別、時間帯別などに把握できる。

 ただ、この統計データの利用には個人情報保護の観点から、観光客の性別、年齢などの属性が表せないといった制約もある。また、位置情報は人の動きや滞留に基づくため、たとえば、午前4時の滞留地点で宿泊地を判別したり、ビジネス客を月間訪問回数や連続宿泊日数などの基準で除外して観光客のデータを絞り込んだりするなどの統計処理が施される。

 試験的に分析を行う8地域は、観光圏整備法に基づく富良野・美瑛観光圏(北海道富良野市など)、雪国観光圏(新潟県湯沢町など)、八ケ岳観光圏(山梨県北杜市など)、にし阿波〜剣山・吉野川観光圏(徳島県三好市など)、「海風の国」佐世保・小値賀観光圏(長崎県佐世保市など)、阿蘇くじゅう観光圏(熊本県阿蘇市など)と、福島県全域、富士山周辺地区。

 観光圏の6地域は2012年の年間データを分析。福島県全域に関しては、東日本大震災からの観光の復興状況を把握するため、NHK大河ドラマ「八重の桜」が放送を開始した今年1月以降のデータを把握。富士山周辺地区は、富士山の世界文化遺産登録後の動きをつかむために今年6月以降のデータを分析する。

 活用手法の構築に向けて観光庁は17日、有識者を集めた「GPSを利用した観光行動の調査分析に関するワーキンググループ」の初会合を開いた。座長は国立情報学研究所コンテンツ科学研究系准教授の相原健郎氏。オブザーバーとして総務省の情報通信政策や消費者庁の個人情報保護の担当者らも参加している。

 座長の相原氏は「ビッグデータを解析し、他の統計データと組み合わせながら分析することで、経験則や思い込みにとらわれない観光ルートづくりなどが進む可能性がある。観光への利用に関する問題点なども議論しながら活用の手法を検討したい」と述べた。

 一方、観光庁は、昨年3月から今年3月まで官民を挙げて開催した東北観光の復興キャンペーン「東北観光博」に関して、ゼンリンデータコムの混雑統計を基に観光客の行動を分析した報告書を作成中。分析の一例としては、「仙台・秋保・作並ゾーン」を訪れた観光客は、その前後に訪問先がある場合、「上山・天童・山形蔵王ゾーン」「ふくしまゾーン」「白石・宮城蔵王ゾーン」の比率が高いといった周遊状況などが判明している。

 
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