中華圏の正月休み「春節」。今年は2月4~10日の1週間で、日本にも多くの観光客が訪れた。モノ消費からコト消費への変化が進み、観光客は例年と違う動きも見せているようだ。全国の温泉地の旅館・ホテル経営者に春節の外国人客の動向を聞いた。
著名なスキー場を抱える新潟県の温泉地の旅館。「今年になり、中国本土からの個人のお客さまがぐっと増えた」という。外国人客は毎年右肩上がりに増え、スキー客はクリスマスから3月初めごろまで、曜日を問わず来ているという。
春節期間は中華圏に在住の欧米人の来訪も目立った。インドネシア、マレーシアなどイスラム圏の人々も家族で雪遊びに来るという。「がっつりスキーをする人たちではなく、お手軽にスキーや雪遊びをする人たち。東京滞在中に足を延ばして1泊する人や、逆に当温泉に連泊し、東京へ日帰り観光をするお客さまも増えている。東京より滞在費用が安く済み、スキーも雪遊びもできるのが受けているのだと思う」。
同じ新潟県の別の温泉地の旅館経営者。「1、2月は稼働率が90%。お客さまの90%が外国人で、そのうち80%がオーストラリア」。
外国人のスキー客は年々増えている。「当地は日本的でリラックスでき、パウダースノーも最高とよく言われる」と高く評価されている。
栃木県の温泉地では「例年同様の入り込みで、特別の変化は見られない」ものの、スキー場で中国人の家族連れが増えたという。「団体ではなく、個人の家族連れというところがこれまでにない動き」。
栃木県の別の温泉地も団体から個人への動きが顕著になっている。国籍は中国本土、台湾、香港、インド、マレーシア、フィリピンが目立つ。東欧やオセアニアなど、国籍は年々多様化しているという。
ある旅館では団体から個人へのシフトで外国人客の人数自体は減っているものの、宿泊単価が2千円アップ。「今後、中国本土のプチ富裕層クラスのお客さまが増えると予感している」。
群馬県の温泉旅館では、「春節の外国人の集客はほぼゼロ。一番の原因は、中華系の皆さまに知られていないことだと感じている」。
危機感を感じ、「北関東の温泉地にとって、2月は年間で最もお客さまが少ない時期。春節にうまくからめばいいと思っている。私どもでは今年から繁体字のSNSなどでの情報発信を進めるよう、準備を進めている」。
大分県の温泉旅館。外国人客は韓国が6割程度だが、昨年から中国のFITが急増している。この1月はさらに伸長して春節を迎えたという。「多くのシェアを占める韓国と台湾は天井感が出ており、中国、東南アジアマーケットに期待がかかる」。
大分県の同じ温泉地にある別の旅館はインバウンドを積極的に受けていないものの、国内OTAを通した韓国と香港の宿泊客が来ている。「今年感じたのが電子マネーによる決済の問い合わせが増えたこと。連泊のお客さまも増えている」。
岡山県の温泉旅館は「今年の春節は思ったほどの集客はなかった。京都や大阪で新規ホテルや違法を含む民泊が増えたためではないか」。
神奈川県の温泉ホテル経営者も民泊に言及。「素性の分からない町外の人が低廉な宿泊施設を開業している。居住人のいない不法民泊もまだ増えつつある。取り締まりを強化すべきだ」。
経営者は観光客の急増による負の部分も指摘。「迷子、忘れ物、けが、病気、事件、事故が増えるので、業界の対応だけでは間に合わなくなる。地域社会の非常時対応が問われる。地域に限らず日本全体が訪日客を迎える心の準備をする必要がある」。
【森田淳】
今年の春節も多くの外国人が日本を訪れた(東京・秋葉原の歩行者天国)