
日本秘湯を守る会の設立50周年記念式典
理念継承が課題、地熱、人手不足も
日本秘湯を守る会が設立50周年を迎える。高度経済成長期の中、温泉旅館の大型化や団体旅行の大量送客など、旅をとりまく環境の変化を憂えた朝日旅行会(後の朝日旅行)の創業者、故・岩木一二三氏が提唱。それに賛同した山間部の小さな温泉宿33軒が集まったのが始まりだ。50周年記念式典には、現在の会員宿144軒が出席し、地域の自然や暮らしに根差した温泉文化、旅文化を守り、旅人の心に寄り添うという会の基本理念を継承し、これからの時代に向き合い、支え合っていくことを誓った。
■秘湯は人なり
日本秘湯を守る会は、岩木氏の「今の状況は本来の旅の姿ではない。人間性を置き忘れている。旅の本質を見失っている。いつの日か人間性の回復を求め、郷愁の念に駆られ山の小さな温泉宿に心の故郷を求め、本当の旅人が戻ってくる」との考えに、宿の経営者が賛同し、1975年4月に発足した。
岩木氏は、設立後も会の在り方、宿のあるべき姿を力説し、2001年11月に亡くなったが、会員宿は、自然環境や温泉資源を守り、旅行ブームや温泉ブームに流されることなく、「旅人の心に添う 秘湯は人なり」を基本理念に、日本の原風景や心のふるさとに触れる旅文化、温泉文化の継承に努めてきた。
会の名称を記した大きな提灯を宿の軒先に掲げ、秘湯のブランドを守り、会員相互の共同宣伝、相互誘客にも取り組んでいる。秘湯に親しんでもらおうと、宿泊実績に応じて無料宿泊に招待するスタンプ帳事業、会の公式ウェブサイトによる宿泊予約事業など、誘客の強化にも力を入れている。
創立50周年記念式典は、13日に東京都千代田区の有楽町朝日ホールで開かれた。会員、来賓、一般観覧者、合わせて約500人が参加。入浴・温泉文化をテーマとした人気漫画「テルマエ・ロマエ」の作者、ヤマザキマリ氏の講演もあり、一般観覧者は千人を超える応募の中から抽選で選ばれた。
■理念を継承
日本秘湯を守る会の星雅彦会長(新潟県・栃尾又温泉、自在館)は、あいさつやパネルディスカッションの中で、「われわれが大事にしている理念は『旅人の心に添う 秘湯は人なり』。時代とともに暮らしが変わっていく中でも、この理念を伝えていくことが日本秘湯を守る会の宿の役割だ。これからも小さな宿が支え合い、温泉文化、地域文化を後世に伝えていく」と語った。
課題の一つには、全国各地で開発が進み、温泉資源への影響が懸念される大規模地熱発電を挙げた。「秘湯の宿は、温泉があったからそこにある。それが根源であり、温泉を提供できることが価値になっている。温泉を別のもので補完することはできない。われわれが山を下りることにならないようにしてほしい」。
インバウンドに関しては、「ウェブサイトの多言語化などは進めるにしても、秘湯の宿はこれまで通り、変わらずにお客さまをお迎えしていくことが外国人のお客さまに対してもいいことなのではないか」。人材については「働き手不足は深刻だ。海外からも働きに来てもらっている。後継者の問題も考えていく必要がある」と指摘した。

星雅彦会長
また、日本秘湯を守る会の50年の総括として講演した佐藤好億名誉会長(福島県・二岐温泉、大丸あすなろ荘)は、「“岩木学校”で薫陶を受けたのは、人はなぜ旅に出るのか、宿はどうあるべきか、考え続けろということだった。時代に合わせて経済効率だけを求めれば、心は薄っぺらになっていく。これからをどう生きるのか。己だけが生きればよいという社会にしては駄目だ」と訴えた。
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