日本文化を生かした観光振興を 都倉俊一・文化庁長官に聞く


都倉俊一・文化庁長官

文化を産業としてしっかり育成

「旅館」は稀有な存在、文化の継承を

 文化芸術の振興を通じて観光や地域の活性化にも取り組む文化庁。都倉俊一長官に「日本文化を生かした観光振興を」をテーマに話をうかがった。日本を代表する作曲家で、数々のヒット曲を生み出した都倉長官ならではの文化論から、旅館、温泉でのエピソードなど、話は多岐にわたった。(長官室で。聞き手=本社取締役編集長・森田淳)

 

 ――音楽、伝統芸能、食など、日本文化ならではの魅力について。他国との比較も含めてどうお考えか。

 日本文化は2千年の悠久の歴史の中で培われてきたもので、世界でも例を見ないほど長く、綿々と続いている。島国であることが独自の文化が築かれ、維持されてきた要因かもしれない。
ただ、私の幼少期、ドイツにいた頃は、周りの人たちが日本の文化をあまりにも知らなすぎた。当時は戦後間もなく、日本はまだ弱小国。国際社会は日本に対しての認識がほとんどなかった。「日の丸少年」だった私はじくじたる思いだった。

 世界が日本を意識するようになったのは、1964年の東京オリンピックからとよくいわれるが、契機は1970年ごろではないだろうか。私も大人になって、社会に出て、アメリカやヨーロッパで「エコノミックアニマル」などと呼ばれて日本の国力が急速に上がっていくのを肌で感じた。

 今、世界の多くの人たちが、日本へ興味を持つようになった。情報化社会の中で、漫画やアニメなどのポップカルチャー、いわゆるクールジャパンというものを、若い人たちがネットで調べて、興味を持ち、バックパックを背負ったりして日本に来始めた。

 そしてポップカルチャーにとどまらず、日本古来の文化にも触れ、その懐の深さに魅力を感じるようになった。

 日本は2020年に訪日インバウンド4千万人という目標を掲げた。新型コロナウイルス感染症の影響により、残念ながら達成できなかった。コロナ禍がなければオリンピックが予定通り開かれ、4千万人の目標も達成できたはずだ。

 しかしコロナが落ち着き始め、政府が水際対策を緩和した途端、多くの外国人観光客が日本にやって来た。数日前に京都に行ったところ、四条河原町や祇園の辺りはすごい人だった。1年前とは隔世の感だ。今まで鬱積(うっせき)していたものが一気に解放された感じだ。

 さまざまなデータを見ても、世界の人々の日本への関心は高く、4千万人ではとても収まりきらないぐらいだ。

 日本文化は「わび・さび」の文化といえる。控えめで、奥ゆかしい。だからこそ奥が深く、かめばかむほど味が出る。

 私が子どもの頃の、日本文化を誰も知らなかったという体験も、ある意味日本が「わび・さび」の文化だったからなのかもしれない。自らを派手にアピールする国民性ではなかったのだろう。

 だが、長い年月がたち、日本文化が海外にかなり知られるようになった。これからも日本人としての奥ゆかしさを大切にしつつ、海外へのアピールをさらに積極的に行うべきではないか。

 ――一口に日本文化といっても、古典から長官の専門分野の現代音楽までさまざまだ。

 2千年の歴史に培われた文化遺産から、クールジャパンと称されるポップカルチャーまで多彩なのが日本文化の特徴だ。

 ただ、私の専門分野である音楽で言うと、韓国のKポップに国際的にはかなり先を行かれている。韓国は今からおよそ15年前、エンターテインメントを輸出産業として、国策として創造すると宣言した。今までは日本に追いつき追い越せだったが、今は逆に、われわれが研究しなければならない立場になった。

 日本には大人向けの成熟したエンターテインメントが不足している。特にナイトタイムエコノミーといわれる夜のエンターテインメント。ニューヨークの美術館や劇場は夜の9時半や10時ごろまで開いているが、日本は6時ごろまで。さまざまな理由があるだろうが、これでは夜のエコノミーを放棄しているようなものだ。
 
 「文化や芸術はお金に替えられない」という崇高な意見もあるが、一方では文化を産業として、しっかりと確立させなければならない。音楽も映画も、日本はまだ産業として育成しきれていない。ドイツの音楽、イタリアのファッションなど、先進国は文化産業をしっかりと確立している。文化を産業として育成し、GDPの中で目に見えるぐらいの数字にしなければならない。

 ――コロナ禍でさまざまな文化芸術活動が中断され、その継承も危ぶまれた。

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