旅館の泊食分離 再考 外国人増加、人手不足など環境変化 

  • 2019年4月2日

事業の報告会

地域連携が対応の鍵 観光庁事業報告会で

 旅館において宿泊と食事を別立てにする泊食分離。すでに素泊まりや朝食のみのプランを販売する旅館は少なくない。旅館個々の経営や地域の実情、旅行動向に応じて取り組まれているが、外国人旅行者の増加、旅館の人手不足など、泊食分離を取り巻く環境も大きく変化。11日に東京都内で開かれた観光庁の「宿泊施設の地域連携推進事業」の報告会でもさまざまな意見が出た。

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 観光庁の事業では、旅館の連携を通じた泊食分離がテーマの一つで、各モデル地域が実証事業を実施した。事業の主な狙いはそれぞれで川湯温泉・屈斜路温泉(北海道弟子屈町)は連泊客の獲得、昼神温泉(長野県阿智村)は若年層などの宿泊促進、飯坂温泉(福島市)はインバウンド誘客。有志の旅館が参画し、食事の選択肢を広げ、ニーズへの対応を模索した。

 湯田中温泉(長野県山ノ内町)の場合は事情が異なる。地獄谷野猿公苑のスノーモンキーが人気となり、欧米を中心とする外国人の個人客、連泊客の急増にせまられる形で、すでに泊食分離が進んでいる。その結果、旅館では宿泊客の夕食需要が地域の飲食店に流れ、稼働率は上昇しても単価が伸びない状況も見られるようになった。

 モデル事業に参加した湯田中温泉、清風荘の大関松男氏は「泊食分離で地域は潤っても、旅館は売り上げが上がってこない。大きな旅館ではピーク期でも板場が暇な時があると聞く」。しかし、旅館の事情は多様で、大関氏は「当館のような家族経営の旅館では人手不足で夕食を出すのが大変になっている。連泊客などはよそで食べてもらう方がありがたいという場合もある」と説明した。

 こうした課題を踏まえて湯田中温泉ではモデル事業の中で、旅館の夕食プラン単品を旅行サイトで展開し、素泊まりなどの外国人客に販売したほか、飲食店との差別化に向けて高付加価値な食事を富裕層などにアピールする試みを始めた。ベジタリアン、グルテンフリーなどへの対応も食の高付加価値化の一環と捉えて推進した。

 湯田中温泉のあぶらや燈千社長の湯本孝之氏は「1泊2食という日本の伝統的な宿泊文化は大事だが、ワールドスタンダードに寄せることも大事だ。連泊してもらう上での滞在のしやすさ、満足度を考えると、泊食分離は進めるべき課題ではないか」と指摘した。

 旅館は、地域経済に中核的な役割を果たす一方で全国的な施設数は減少している。廃業や外部資本の買収による業態転換なども相次ぐ。泊食分離にはメリット、デメリットがあるが、宿泊ニーズの変化、多様化に対応しなくてはならない。

 モデル事業のアドバイザーを務めた井門観光研究所の井門隆夫氏は、旅館にはそれぞれに経営状況があり、「泊食分離が言われて20年になるが、すべての旅館が導入できるとは限らない」とした上で、「旅館の灯を消さないために何をすべきか。金融機関だけでなく、地域ファンドなどのニューマネーを入れていく必要がある。例えば、地域の旅館が手を組んで廃業旅館を買い、そこを素泊まり旅館化し、1泊2食の旅館と混在した温泉地を作っていく。これからの泊食分離の一つの姿ではないか」と提言した。

 同じくアドバイザーの北海道大学観光学高等研究センター客員教授の臼井冬彦氏は「旅館が抱えている設備と人の固定費の中で泊食分離にどう対応するか。個別の経営の中で考えると、やはり人の問題が大きい。できるかどうかはともかく、旅館個々ではなく、地域で料理人を抱えて、料理を提供するという形があり得るのか、あり得ないのか。そうした課題を地域で考えてみるべき」と提案した。

 泊食分離を考える条件は、地域ごとに異なり、環境は常に変化しているが、旅館の連携を通じて課題を解決していくしかない。

【向野悟】

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