旅行需要回復を確かなものに  JTB代表取締役専務執行役員 ツーリズム事業本部長 花坂隆之氏に聞く


JTB代表取締役専務執行役員 ツーリズム事業本部長 花坂隆之氏

魅力的な着地型コンテンツ拡充

 ――22年度のツーリズム事業の取り組みと実績についてお聞きしたい。

 「22年度は中期経営計画のフェーズ2の初年度で、『回復と成長』の年と位置付けていた。コロナ禍から脱却するフェーズから、正の成長サイクルを取り戻すことを主眼に置いた取り組みをしてきた。国内市場自体は夏に第7波で需要回復にブレーキがかかったが、ワクチンの効果などもあって、夏以降については一定程度回復し、10月からは『全国旅行支援』も開始され、19年度同月の宿泊者数にかなり近い回復となった」

 「国内個人旅行の取扱額は下期以降急速に回復し、19年比で80%程度まで伸びた。団体旅行については19年度並みまで回復し、企業の慎重な判断が続いたこともあり一般団体については完全復活までいかなかったものの、教育団体は、修学旅行の催行率が向上したことに加え、21年度実施予定分や海外方面からの振替需要もあって、19年度比を大幅に超える高水準だった。厳しい状況の中でも教育団体が需要をけん引した」

 ――そういった中で、力を入れた取り組みは。

 「年明けから正の成長サイクルに戻すことを目指し、『旅行に行こう』という機運醸成を目的として久しぶりにテレビコマーシャルを開始するなど、積極的にプロモーションを実施してきた。『OMO』の取り組みとして、Webを起点としたお客さまの利便性を向上させるための施策なども引き続き積極的に進め、Webでの宿泊増売ができ、ダイナミックパッケージ(DP)『MySTYLE』の販売も定着をしてきた。店舗販売でも言えることだが、DPで旅行に行くというスタイルがかなり定着してきた1年だった」

 ――宿泊増売に向けて取り組んだことと、その成果は。

 「上期は非常に苦戦を強いられたが、下期については全国旅行支援の効果などによって19年度並みの受注となった。22年度全体では目標比8割強程度で着地する見込み。目標に対しては残念ながら未達となったが、ベンチマークとしていた販売額まで回復を果たし、一定程度の成果を残せたのではないか。これも旅ホ連会員の皆さまのご協力の賜物であるので、改めてご支援とご協力には御礼を申し上げたい」

 ――23年度について、まずは国内旅行市場の見通しからうかがいたい。

 「23年は、国内旅行者数が22年比で108.6%、19年比では91.2%の2億6600万人と想定されている。旅行者1人当たりの平均消費額は前年比101.5%、19年度比で105.8%の4万300円まで上昇すると考えられている。また、これまで3年間なかなか動けなかった人たちのリベンジ消費需要が発生すると見通している。一方で海外旅行は本格的な回復にはしばらく時間がかかるという見通しが出ており、国内を中心に旅行を検討する層が引き続き多い1年になると想定している」

 「ようやくコロナ禍が明けて、さまざまなスポーツ、音楽などのイベントが積極的に開催されるため、そのような需要も旅行需要回復をけん引していく要素になる。トレンドという観点では、コロナ禍を経て、ライフスタイルの変化や価値観の多様化が進み、働き方では、出勤する人が一定程度戻ったが、多様な働き方が推進される中でリモートワークやワーケーションなどが徐々に定着している。また、お客さまがカーボンニュートラルや環境への配慮などサステナビリティを意識した選択をするようになってきた。そのようなお客さまの価値観の変化がわれわれ旅行・観光業界にも一定の影響を及ぼすような1年になる」

 ――23年度はどういった事業を展開していくのか。

 「中期経営計画の中の3年目となり、これまでの『回復と成長』から、次のフェーズである『成長と飛躍』につなげていく。われわれは『足元と未来』と言っているが、足元についてはまずもって旅行業としての競争力の回復と収益の最大化を図り、本格的な旅行需要の回復を確かなものにする。一方で未来に向けて、既存のビジネスモデルの変革や、次の成長と飛躍に向けたさまざまな投資を行う。足元の旅行需要は、国内旅行の回復と訪日インバウンドの急速な伸長、十分ではないが海外旅行の復活と、潮目が大きく変わってきている。その一方で、この3年間で培ってきた地域交流・BPO事業は、コロナ関連は減少するものの、観光地の再生事業などの事業については引き続き取り組んでいく。現在、一番強化しているものは、コロナ禍でなかなか旅行に行けなかったお客さまとの関係性の再構築をしている。お客さまとのコミュニケーションにこだわり、お客さま数をもう一度増やしていく取り組みを進めていきたい」

 「この3年間の中でもわれわれはずっと『お客さまの実感価値向上』を基本として、さまざまなお客さまとの接点における利便性の向上や心地良さを追求してきた。具体的には旅マエ、旅ナカ、旅アト、それから日常に寄り添ったHPの改修やアプリの改善、お客さまとの関係性で言えば、ステージ制の抜本的な見直しによるトラベルメンバー、マイカスタマーとの関係性の強化に注力をしてきた。これをもう一段磨き上げをすることで、お客さまとのコミュニケーションを強化し、再びお客さま数の拡大につなげる」

 「法人も今後、企業需要が活発化してくる中で、コロナ禍で少なくなった社内コミュニケーションを復活させるツールとしての職場旅行や、社内のコミュニケーションイベント、MICEが増加してくる。これまでの3年間なかなか実施ができなかった企業の周年行事も復活する。このようなお客さまのニーズにしっかりと向き合いながらお客さまの課題解決につなげていきたい」

 ――宿泊増売に向けた取り組みは。

 「仕入戦略としては、昨年から進めている『法人・個人・仕入一体化体制』に今年度は京都支店と水戸支店の二つが加わり、全国で35拠点まで拡大した。地域の皆さまと一緒に魅力的な着地型コンテンツや高付加価値コンテンツを拡充していく。また、MySTYLEの進化にも取り組む。これまでもお客さまの実感価値追求のために、単なる交通と宿泊の組み合わせではなく、滞在先でのさまざまな旅行のメニューの提案をしてきた。今年度は、『旅の過ごし方+(プラス)』という名称で実際に旅行を予約した人だけに提供する高付加価値のコンテンツを拡充していきたい。朝型のメニューや夜の体験メニューといった旅ナカ素材の付加価値が宿泊をすることの動機づけになる」

 「われわれはエスコート型商品『旅物語』や高品質商品を扱う『ロイヤルロード』、訪日インバウンド商品を扱う『JTBグローバルマーケティング&トラベル』など多彩な商品群を持っている。多彩なお客さまとの接点、各チャネルの特性を生かしてグループトータルで戦略的に進めていきたい」

 ――宿泊販売の目標額は。

 「宿泊販売額については、消費額や宿泊単価の向上という要素を含めて、19年度を一つのベンチマークとしている。需要の回復想定から考えると少しチャレンジングな目標だが、旅ホ連の皆さまとしっかりと取り組みを進めていくことによって目標を達成していきたい」

 ――宿泊増売に向け旅ホ連とどう取り組んでいくのか。

 「昨年度は、JTBからの『新・4つのお願い』ということで、DMC支店や各仕入、地域の仕入販売部との連携強化や、地域の行政・自治体にJTBが入り込むための力添えといったお願いをしていたが、この1年も同様に会員の皆さまへのお願いを継続していきたい。新・4つのお願いは、その地域において魅力ある観光地づくりを進めていく上での『共創』の内容だ。さまざまな商品コンテンツの開発や、地域の交流拠点と2次交通の整備、現在不足している観光人材の育成などによってエリア全体の価値を高め、再び訪れてもらえる観光地を作り上げていく。そのことは、それぞれの施設の宿泊増売につながってくる。会員の皆さまのお力添えをぜひお願いしたい」

 「訪日インバウンド需要への対応も、これから先、不可欠だ。地域が望むインバウンド客獲得に向けて、仕入商品戦略、コンテンツ開発強化、また、全国への分散化、オーバーツーリズムの解消などの取り組みを旅ホ連の皆さまと一緒に進めていきたい」

 
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