西日本豪雨の影響を危惧
観光経済新聞社は17日までに、大手旅行会社と主な温泉地を対象に、夏休み期間(7月下旬~8月末)の旅行・宿泊予約状況を調査した。客足はほぼ前年並みを見込むが、西日本豪雨の影響で宿泊キャンセルが発生しており、先の見通しを危惧する声もある。
●旅行会社
JTBは、夏休み(7月15日~8月31日)の国内旅行人数を前年並みの7460万人と推計する(5日発表)。
国内パッケージツアー「エースJTB」の予約状況によると、出発日のピークは8月11日から15日。ファミリーでリゾートを満喫できる沖縄の離島や、4月に名古屋にオープンした「レゴランド・ジャパン・ホテル」に泊まるプランが人気という。
KNT―CTホールディングスによると、7、8月は国内旅行「メイト」が前年比約9割で推移。東京ディズニーリゾート(TDR)35周年の効果もあり、TDR関連商品が好調。新商品やウェブでの即展開など積極策が功を奏しているという。クラブツーリズムは前年を若干割るが、鹿児島、信州などの長期滞在が好調。
日本旅行の国内パッケージツアー「赤い風船」は、この夏は首都圏方面が前年比103%。特にTDR関連が113%と好調だ。
九州方面は同101%。熊本方面のPRや、鹿児島の「西郷どん」効果が全体を底上げしている。
東武トップツアーズは夏休み期間、首都圏発でTDRが前年比129%、関東近郊家族向け商品「夏の宿」が112%。京阪神は138%で、特にユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が180%と好調だ。
関西・中部発では、TDRが115%、九州が139%、四国が139%など。USJ関連の京阪神宿泊プランが155%。北陸方面も前年の反動で241%と好調だ。関西近郊の家族向け商品「夏のとびら」は102%と堅調。
北海道など航空機利用のロング方面は首都圏発、関西・中部発ともに不調という。
「夏休みに入ると間際予約もあり、伸びが期待される」と同社。ただ、「関西、中国・四国方面は今後、大雨被害の影響で旅行先変更、取り消しが出てくることが懸念される」。
●温泉地
群馬県の草津温泉。1月の本白根山噴火で風評被害に悩まされている。旅館協同組合は「夏休みの予約状況は昨年と比べ決して良くない」という。輪をかけているのが観光の大動脈である国道292号「志賀草津高原ルート」の一部区間の閉鎖だ。
同ルートは新潟など日本海側の県から草津に行く際の重要な道路となる。「ここが通れないのが痛い。北陸からの予約が入ってこない」と顔をしかめる。高級旅館の経営者も「草津温泉全体で入り込みは良くない。当館にしても夏休みの予約はぼちぼちという状況だ」と話す。
西日本豪雨でJR高山本線や長良川鉄道などの交通網が寸断され、影響が心配されている岐阜県。下呂温泉旅館協同組合は「実被害はない。夏休みの予約もぼちぼち入ってきている」という。
高山本線は12日朝に下呂―飛騨古川間で再開するなど徐々に復旧しつつあるが、再開時期が見通せないところもある。
下呂市や下呂温泉観光協会、下呂温泉旅組などで作る市観光客特別誘致対策協議会は14日から8月10日まで、中津川市のJR中津川駅と下呂駅を結ぶ直行バスを毎日1日2往復運行させる。「名古屋方面、東濃方面からのお客さまは利用してほしい」と呼び掛けている。乗車料金は片道2千円(3歳未満無料)。
下呂―名古屋間は直行バス(1日1便、往復3700円)も運行しており、「足の確保はできている」(下呂温泉旅組)と強調する。
大分県の別府市旅館ホテル組合連合会によると、宿泊予約は順調に入ってきている。「7月の連休(15~16日)はすでにいっぱい。8月のお盆も埋まってきており、例年並みに推移している」。
昨年は、7月に九州北部で記録的な大雨があり、予約の動きに少なからず影響が出た。今回の西日本豪雨は被害もなく、ホッとした様子だった。
九州北部では、昨年7月の豪雨で光岡―日田間の鉄道橋が流失するなど大きな被害を受けたJR久大本線が14日、全線復旧した。臨時ルートで運行してきた特急「ゆふいんの森」も通常ルートでの運行を再開した。沿線エリアの観光地では、久大本線の全線復旧を弾みにした夏の誘客が期待されている。
西日本豪雨では大分・由布院温泉の宿泊施設などに被害はなかった。由布市まちづくり観光局の生野敬嗣事務局次長は「西日本豪雨の被害のことを考えると心苦しいが、2度(12年、17年の九州北部豪雨)の苦難を乗り越えようとしている当地の姿を発信することで、今回の被災地域も必ず復興できると元気づけたい」と話していた。
愛媛・道後温泉の旅館協同組合の加盟旅館・ホテルでは、豪雨による直接的な被害は営業中の施設にはなかったが、6~8日の宿泊分にはキャンセルが相次いだ。以降の数日間は、被害の有無や道路事情などに関する宿泊予約客などからの問い合わせが増加した。夏休みシーズンの宿泊予約については「影響が出るかどうかは現時点(12日)では分からない」としている。
NHK大河ドラマ「西郷どん」で脚光を浴びる鹿児島県。指宿市観光協会は、「例年通りのペースで、宿泊施設の売れ行き状況は良い」。
北海道・登別温泉も「前年並みの予約」(登別国際観光コンベンション協会)。昨年はインバウンドの伸びが目立ち、5年前の年間31万4千人から同51万8千人に。
今年は開湯160周年を迎えるほか、恒例の「登別地獄まつり」も55回目を数える。通常は8月最終週の週末2日間開催のところ、今年は24~26日の3日間開催。街全体で祭りを盛り上げる。
山形県・蔵王温泉の夏の宿泊予約は、「7月は前年を下回るが、8月はまずまず」(蔵王温泉観光協会)。ただ、「先の予約に影響が出ないとは限らない」と、豪雨による西日本方面からの客足の減少を危惧している。
富山県の宇奈月温泉は、「お盆の中では山の日の8月11日の宿泊が混み合っている」(宇奈月温泉旅館協同組合)。関西、中部方面からの予約キャンセルが豪雨の影響で数日続いたという。
兵庫県の城崎温泉。同温泉観光協会によると、豪雨の影響で一時運休していたJR山陰本線、福知山線が12日までに運転を再開。温泉街の旅館・ホテルも通常営業している。夏休み期間の予約は「特に減っているという話は聞かない」という。
ただ、ある旅館では、今回の豪雨で600人超のキャンセルが発生。約1500万円の売り上げが損失した。観光産業の打撃が大きいと、地元豊岡市の中貝宗治市長が12日、兵庫県庁を訪問し、現状を報告。今後、改めて支援を訴えることも考えているという。