「心かよわす、高湯のまち」掲げ 世界に誇れる蔵王温泉目指す
――4月の協会長着任から3カ月。感触は。
「これまでも協会のイベント委員長やDMC準備委員会の委員長としてさまざまな実務や折衝にも当たってきてはいたが、協会長となると入ってくる情報量も何もかもが違う。だが1年目の基礎固めの段階ではあるものの、着実に動きだせていると自負している」
――今年度の事業計画のベースとなっている『蔵王温泉の未来を築くビジョン冊子』について伺いたい。
「従来蔵王温泉では、先輩である観光協会の理事が中心となって物事を取り決めており、次代を担う若い世代が発言、発信できる場があまりなかった。そこで2018年6月、山形市観光戦略課の声掛けもあり、蔵王温泉の宿泊、飲食、物販、索道など観光関連事業者の若手中心に、私含め約30人が集まって『蔵王温泉の未来を築くビジョン会議』を立ち上げた。当時設立されたばかりのDMC『おもてなし山形』やOTA関係者にも入ってもらい、蔵王温泉の現状や自分たちの向かう方向性について話し合いを重ね、まとめたのが『ビジョン冊子』だ」
「蔵王温泉に生きる私たちが心満たされた状態で幸せに生きることと、蔵王温泉の『温泉』『自然』という資源を守り生かすこと、その実現がひいては『世界に誇れる蔵王温泉』の実現につながると考え、これを地域ビジョンに掲げた」
「蔵王温泉は、旧来から蔵王温泉で生活し、商売をしてきた人以外に、新たに参入しようという事業者も多い。実際、最近も星野リゾートが参入するのではとのうわさが出ている。そういった時も、『こんな蔵王にしたい』という『軸』がはっきりしていれば振り回されすぎることはない。また目指すところが『世界に誇れる蔵王温泉』と明確であれば、手段は違えど皆が向かう方向はおのずと定まってくると考えている」
――地域コンセプト『心かよわす、高湯のまち』が表すものは。
「『心かよわす』は、蔵王温泉ならではのおもてなしの心をさすと同時に、蔵王温泉の住民同士、住民と来訪者、来訪者同士の能動的な交流をも表している。『高湯』というのは、1900年以上の歴史を持つ蔵王温泉の古称『最上高湯』に由来するもので、われわれの誇り、心のよりどころである『温泉』『自然』への原点回帰を表している」
――コロナ禍を経て、ビジョン冊子策定時とは環境が一変した。
「ビジョン冊子の目標数値が2023年を一区切りにしていたので、今年度の協会の事業計画で新たな目標を設定した。だが、基本的な考え方は変わらない。コロナ禍明けで私が会長に選任されたのは、ビジョンの温泉全体への理解、浸透からビジョン実現に向けた体制整備、事業推進と、それによる変化への期待によるものだと思っている。地域ビジョンを実現するために協会の組織も一新した。交通や企画、プロモーションの組織には、行動力ある有力な若手を配置した」
――蔵王温泉はさまざまな組織があり、どこがイニシアチブを取っているのか分かりにくいと言われてきたがどう考えているか。
「DMCのような事業を展開する組織が以前からあるほか、新たに立ち上がったりもしているが、それぞれ強みを生かして頑張ってもらえればありがたい。観光協会の存在意義にもつながる話だが、協会は『もうけましょう』というよりも、蔵王温泉としての一体感を失わないようコントロールするのが役目。皆が気持ちよく生活、事業ができるよう、公平性、平等性を担保しながら蔵王温泉をボトムアップするための取り組みを進める。収益事業の立ち上げなどは行うかもしれないが、軌道に乗ればDMCなどに渡していく方針だ」
――イニシアチブを取るには、ある程度の自主財源は必要ではないか。
「自治体との連携や補助金などを活用するほか、会費制の『ファンクラブ』立ち上げを考えている。現在協会には、蔵王に住所がある事業者しか加入できない。しかし、他所の事業者や一般の人にも『蔵王が好きで何か関わりたい』『蔵王を何とかしたい』という層は存在している。その層と情報共有や関係を深めるような取り組みを進めることで、『蔵王温泉愛』を新たな蔵王温泉づくりに生かしたいと思っている」
――岡崎会長は温泉への造詣が深い。
「自分の宿では『五つ星源泉の宿』を標榜(ひょうぼう)し、新鮮な温泉を源泉掛け流しで提供することにこだわっている。還元実験などを通して、蔵王温泉の持つ力を実感してもらう温泉教室も宿泊客向けに実施している」
「蔵王温泉は強酸性で殺菌力が高いだけでなく、還元力も抗酸化作用も強い。だがそういった蔵王温泉の『凄さ』をきちんと説明できる人が少ないのが現状だ。協会で今年新たに温泉についての小委員会も立ち上げたので、まずは地元住民がしっかり知識を身に付けて語れるようにしたい」
おかざき・ぜんしち 1991年明治大卒業後、大平ホテル(現・善七乃湯)入社。2008年から同館社長。山形県出身、54歳。【聞き手・小林茉莉】