
WBF近藤社長
経営破綻からの復活劇
WBFホテルの資産が寄与 コロナ禍も再生の追い風に
――2020年4月にホテル業の「WBFホテル&リゾーツ」が負債160億円で倒産。同6月に旅行業の「ホワイト・ベアーファミリー」が負債278億円、両社のホールディングカンパニーだった「WBFホールディングス」が負債73億円で倒産した。21年10月に民事再生手続きが終了し、近藤さんは社長に再就任された。倒産した旅行会社の民事再生成功も、元オーナー社長の復帰も前代未聞だ。倒産から再生に至るまでのドラマをおうかがいしたい。
「WBFホテル&リゾーツは、北海道にホテル5軒を保有、運営。他に賃借・運営受託で北海道4軒、関東1軒、関西17軒の22軒を運営していた。合計27施設で約3900室、19年3月期の売り上げは約47億6千万円あった。ホテル事業は旅行業の関連事業として開始し、自社ツアーやOTAなどで販売していた。インバウンドも好調だったが、コロナ禍で客足が止まり、特に固定家賃で賃借している物件などで収益が急激に悪化。結果、民事再生法の適用を申請した。旅行業のホワイト・ベアーファミリーについては、当初は民事再生を考えていなかったが、債務の連帯保証をしていたことから、両社のホールディングカンパニーであったWBFホールディングスと共に連鎖倒産した。沖縄と九州のホテル事業を行っていたWBFリゾート沖縄は、別のスキームで動いていたため法的手続きを取らずに済んだ」
――6月30日に大阪地裁に民事再生法の適用を申請すると同時に、星野リゾートと3社との間でスポンサー就任についての基本合意書を締結し、発表した。
「ホテルというアセット(不動産)があったおかげだ。もし旅行業だけやっていたら、スポンサーは現れず、民事再生もできなかっただろう」
――それはなぜか。
「ホテルには担保価値のある不動産があるが、旅行業にはそれがない。属人的な人脈と営業力は会社の資産とは見なされないのが現実だ。旅行業では旅行代金を前払いで預かる。関係機関への支払いはずっと後。売り上げが立っていれば常に手元にキャッシュがあるので、それを回していれば経営は成り立つ。ただそのサイクルがいったん止まってしまうと通常は会社清算するしかない」
――星野リゾートは旅行業も支援してくれたのか。
「ネームバリューに助けられた部分はあるが、旅行業に関して金融面での支援は受けていない」
――では、どのようにして旅行業を存続させることができたのか。
「コロナ禍中でそもそもほとんど売り上げが立っていなかった。つまり仕入れに対する大きな支払いもなかった。営業はずっと続けていて、多少の収入はあった。ANA、JALは従来通りの取引を続けてくれたし、顧客も離れなかった。金融機関もさまざまな形で支えてくれた。長年の間、関係機関と正直なお付き合いを続けてきたおかげで、信用崩壊が起きなかった。大半のホテルも閉めずに営業は続けていた。ホテル業も旅行業も、民事再生手続きの中で裁判所から資産の保全命令が出ているので、金融機関への返済などの支払いはできない。つまり、日銭は入ってくる、支払いはないという状態になった」
――それは計算してやったことなのか。
「まさか。全くの運だ。確信を持って言えることは旅行業だけやっていたら再生はできなかっただろうということ。旅行会社には旅行業務以外の収益の柱が必ず必要だ。当社の場合は新たに不動産事業を始めた」
WBF近藤社長
こんどう・やすお 1956年生まれ。78年関西学院大学商学部卒。大学在学中の77年にスキーツアービジネス開始。80年国内旅行業登録。81年旅行会社「ホワイト・ベアーファミリー」設立。90年沖縄でホテル事業開始(現WBFリゾート沖縄)。91年ANA認可代理店。96年旅行業1種登録、JATA正会員、IATA公認代理店。03年JAL認可代理店。07年「高速バスドットコム」開設。09年WBFホテル&リゾーツを設立し、北海道でホテル事業開始。10年中国国民訪日観光旅行会社に指定。15年WBFホールディングスを設立し、ホールディングス制に移行。16年関西、17年九州、18年関東・京都でホテル事業開始。20年4月WBFホテル&リゾーツ民事再生、同6月ホワイト・ベアーファミリー民事再生。同7月ANA・JALと新個人包括旅行運賃契約を締結しダイナミックプライシングのツアー販売開始。21年3月ホテル事業を新設分割し、株式譲渡。近藤氏がグループ代表を辞任。同8月WBFホールディングス、WBFホテル&リゾートをホワイト・ベアーファミリーが吸収合併し、すべてのホテルの売却と資産の整理を実施。同10月民事再生手続きを終了、不動産事業を開始。22年7月1日ホワイト・ベアーファミリーの代表取締役に再度就任。
【聞き手・江口英一】